大学の事務なんてのは、ちょっと前まではいい加減なものであった。 夕方5時になる前から事務室で酒盛りしてるようなのが結構いたのである。 研究室は一種の治外法権みたいなもんで、教授がいいと言えば昼からお花見していても文句は言われないから、本来は関係ない事務系の連中にまでいい加減な文化が根付いていたように思われる。 たぶん、いまはもっとまともになっていると思うけど。 もう十数年も前のことになるが、私がたまたま夕方5時ぐらいに書類を出しに行ったら、もう酒を飲んでいた。 扉を開けた瞬間にまずいとは思ったんだ。 出来れば避けたい事態であったが、私はキャプチャされてしまった。 まあ、仕方がない。 その当時は今よりもあきらめが良かった。 酒盛りをしている面子に、一人ダンディな教授が混じっていた。 原子力を専門にする某教授である。 政府の諮問委員会にも入っている高名な先生であった。 折角の機会だから、私は一つ質問をしてみることした。 以前から私は原子力発電がホントに安いのか疑問だったのである。 原子力発電所を建てようと思うと、周辺自治体に大量の交付金をばらまいたり、産業振興支援金を拠出することになり、結局高くつくんじゃないか、と私は思っていた。 しかし教授の答えは、「安い」であった。 酒の席なので、細かいことは聞いていないが。 当時は廃炉の費用負担が議論されていなかったから、尚更そうだったのかもしれない。 教授は更に続けて、「いずれ化石燃料はなくなるだろう。かといって今の生活水準を下げるなんて出来ないだろ?原子力を使うしかないんだよ」と言ってたな。 その当時、私は今ほど省エネに拘りがなかったし、原子力に反対でもなかったから、特に反論もしなかった。 今でも私は原子力発電に反対する連中があんまり好きじゃない。 反対するならまず生活態度を改めろ、と言いたいのである。 私のように寒い思いをしろ。 できないなら、文句は言うな。 今になって思うと、結局は高くついた。 今回の事故で様々な損害が発生したが、直接的には地価の毀損が一番大きいんじゃないか。 地価が分からないから、適当な計算しかできないが、仮に坪当たり10万円で半径10キロの地価がゼロになったとすると、(10x103)2π/2x105/3.3 ≒5兆円。 半径20キロが無価値になったら、20兆円が失われる計算だ。 実際には無価値になるわけじゃないだろうが、やはり地価は下がるだろ、場合によってはより広範に。 東京電力が抱える損害賠償額は数兆円規模と報じられているけど、実際はもっとデカいんじゃないか。 今後の展開次第だけど。 原子力発電が日本で始まって40年。 いままで得してきた積算コストを吐き出して、なお余りある額になりそうな気はする。 あの教授には、海パンで構内を歩いていて怒られたり、懇親会の段取りが悪いと苦情を受けたりもした。 こんな時ぐらい、皮肉の一つも言ってやりたいものだが。 当時でも高齢だったから、もう死んじゃってるかもしれないな。 <後日談 2011_04_02> そういえば、最近は原発の必要性を説くとき、化石燃料がなくなるって話をしなくなったな。 昔は最大の理由だったのだが。 思いの外、原油や天然ガスが一杯出てくるもんだから、いつの間にか温暖化対策にすり替わったみたいだ。 ダムを造る理由が、水需要の増大から治水に替わったのと同じ理屈かもね。 |