奴にチョキを出す勇気はない! 私は彼の間の抜けた顔を見て思った。 チョキを出さないとすれば、パーに負けはない。 つまり私が選択するべきなのはパーなのだ、絶対に! 私は「迷うな!絶対にパーだ」と自分に言い聞かせた。 人間生きているとつまらない仕事が回ってくることがある。 私はとある事情で、ある委員会の主査かあるいは書記かのどちらかをやる羽目になってしまった。 役職が2つに、対象となる人間が2人いう状況だったのである。 おそらくは運命はジャンケンに託されるであろう。 主査はとても大変そうだし、是非避けていきたい!と心に誓いながら私は今日を迎えた。 ところで、人生にジャンケンはつきものである。 ジャンケンに強い人間は得をすると決まっているのだ。 そして更に言うならば、チョキは弱い。 根拠はないが、何となくチョキは弱いのである。 チョキで負けたら悔いが残って、死んでも死にきれないのだ。 チョキを出すにはとてつもない勇気が必要なのである。 私は役職を決める段取りに進む前から、対戦相手のことを子細に観察していた。 その人の良さそうな顔からは、とてもチョキを出せる人間だとは思えなかった。 絶対奴はチョキを出さない! 私は確信していたのだ。 そして委員会の最後に決戦の時は訪れた。 「さい〜しょ〜はグ〜、 ジャンケン、ぽいっ!」 私:パー 相手:チョキ チョキっ!? 私は呆然とその手を見つめていた。 私は負けたのだ。 しかし、実は対戦直前に相手の方から「勝った方が主査になりましょう」という提案があったのだ。 つまり私は主査を免れたのである。 私は「絶対パー、パー、パー」と念じていたので、話は上の空であった。 負けるべきだということに気がついていなかったのだ。 これは「勝負に負けて、試合に勝った」と言って良いのかな?? どっちに考えても負けてるような気がするんだが・・・。 |