いつでも、どこでもでも

いつでも、どこでもでも '98_11_01



涙を流してもいいはずだ。
悲しいときには泣けばいい。

その寒い国からやってきた大男との別れは、はじめからわかっていたことだった。
共にサッカーをして過ごした日々が、今となってはとても懐かしい。
彼は今、日本最後の夜をどのようにして過ごしているだろう?
私が彼を思うほどに、彼は私を、私たちを思っていてくれるだろうか?

この日、私は出てこないわけにはいかなかった。
別れを述べないで、そのまま彼を行かせるわけにはいかなかったのだ。
しかし、彼の姿を認めても、声をかけることが出来なかった。
どう言えばいいのだろう?
日本語の通じない彼に、この気持ちをどう伝えたらいいのか、私にはわからなかった。
私は自分の語学力を恨んだ。

それでも、別れを述べないわけにはいかない。
私に言えたのは「Someday,let's play again」、それだけだった。
彼は言う。
「いつでもどこでも出来るさ」
果たしてこれが正しいのか・・、私にはそうとしか聞き取れなかった。

私はどうしたら良かったのだろう?
涙がこみ上げてくる。
しかし、自然とブレーキがかかる。
私はこの気持ちを言葉にしたかった。
彼は私が言葉を紡ぐのを待っている。
それでも言葉は出てこない。
私は彼とそのまま別れなくてはならなかった。
せめて彼に抱きついて、涙でも流せればどれほどよかっただろう。

私は今、とても悲しい。
とても寂しい。
私は環境が変わる度に友人を捨ててきた。
部活を終えたときも、別段の感慨を持たなかった。
かつてこんな気持ちになったことはなかった。

誰か私に言葉を与えてください。
この気持ちを伝える力を私にください。
それがかなわないなら、せめて涙を流す勇気をください。

<解説>
この当時、フィンランドからやってきた客員教授の先生と週一回、ミニサッカーを楽しんでいた。

<後日談 '98_12_24>
彼からクリスマスカードが届いた。
しかし、それは遊びの面倒をみた私宛ではなく、研究の面倒をみたA氏宛だった。
研究の世界って厳しいっ。


<後日談 2005_10_07>
7年ぶりに彼と再会した。
さすがに私のことを忘れてはいなかったようだ。
覚えているか?と聞いたら、オフコースと言ってたよ。


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