涙を流してもいいはずだ。 悲しいときには泣けばいい。 その寒い国からやってきた大男との別れは、はじめからわかっていたことだった。 共にサッカーをして過ごした日々が、今となってはとても懐かしい。 彼は今、日本最後の夜をどのようにして過ごしているだろう? 私が彼を思うほどに、彼は私を、私たちを思っていてくれるだろうか? この日、私は出てこないわけにはいかなかった。 別れを述べないで、そのまま彼を行かせるわけにはいかなかったのだ。 しかし、彼の姿を認めても、声をかけることが出来なかった。 どう言えばいいのだろう? 日本語の通じない彼に、この気持ちをどう伝えたらいいのか、私にはわからなかった。 私は自分の語学力を恨んだ。 それでも、別れを述べないわけにはいかない。 私に言えたのは「Someday,let's play again」、それだけだった。 彼は言う。 「いつでもどこでも出来るさ」 果たしてこれが正しいのか・・、私にはそうとしか聞き取れなかった。 私はどうしたら良かったのだろう? 涙がこみ上げてくる。 しかし、自然とブレーキがかかる。 私はこの気持ちを言葉にしたかった。 彼は私が言葉を紡ぐのを待っている。 それでも言葉は出てこない。 私は彼とそのまま別れなくてはならなかった。 せめて彼に抱きついて、涙でも流せればどれほどよかっただろう。 私は今、とても悲しい。 とても寂しい。 私は環境が変わる度に友人を捨ててきた。 部活を終えたときも、別段の感慨を持たなかった。 かつてこんな気持ちになったことはなかった。 誰か私に言葉を与えてください。 この気持ちを伝える力を私にください。 それがかなわないなら、せめて涙を流す勇気をください。 <解説> この当時、フィンランドからやってきた客員教授の先生と週一回、ミニサッカーを楽しんでいた。 <後日談 '98_12_24> 彼からクリスマスカードが届いた。 しかし、それは遊びの面倒をみた私宛ではなく、研究の面倒をみたA氏宛だった。 研究の世界って厳しいっ。 <後日談 2005_10_07> 7年ぶりに彼と再会した。 さすがに私のことを忘れてはいなかったようだ。 覚えているか?と聞いたら、オフコースと言ってたよ。 |