試合レポート

 
2004年1月4日 井原正巳引退試合 国立競技場

 空は晴れていた。三々五々集まる人たちの顔を見ると、普段の試合より年配の人が多い気がする。たまたますぐ上に座ったのだが、車椅子席がいっぱいだ。井原正巳という選手が、長く広く支持された証拠かもしれない。正直に言ってしまえば、私の目的は川口能活なのだが。

 練習のため一番最初に出てきたのは、秋田。代表の試合を見に行くと、いつでもどこでもそうだったっけ。続いて前半井原が入るチーム、代表で一緒だった選手で構成されるIキャップの面々がピッチに散らばる。遅れてJリンク、横浜・磐田・浦和で一緒だった選手たち。能活はこちらのチーム、福西と話しながら出てきた。
 GK練習が始まる。Jリンクの先発松永は、能活がマリノスに入団したときの正キーパー。能活の起用に対する監督との確執でチームを去った。握手する姿を見て、2人の胸中を思う。正確なキックで松永にボールを出した後、ゴールマウスの前に立った時、ゴール裏から能活コールが起こった。それに応えて手を振る姿はマリノスに所属していたときと変わらない。後ろの席の子どもがしきりに川口の名を連発する。ファンなのだろうか。スタッフが少ないせいか、能活はボールを取りに行ったり、片づけたりと忙しい。練習を終えて引き上げるとき、メインスタンドからひとしきりフラッシュが光った。

 試合はまず、井原の入ったIキャップが攻める。それでは肝心の主役が目立たないから、Jリンクに攻めてもらいたいのだが、現役を退いて久しい木村和司が入っていたりするのでそうもいかない。ただ、彼がボールを持つと会場が非常に湧いていた。そしてその木村にボールを集めようとする柳が微笑ましい。
  井原のポジションは、今ではほとんど聞かなくなった“リベロ”。機を見て上がることもある。23分、するするとゴール前までいくが、ヘディングはキーパーの正面だった。そして見せ場はCK。名波からのボールは正確に井原の頭をとらえ、ほとんど競らなかった田中誠の上を越えてゴールに吸い込まれた。

 今までで一番長いと感じた45分が終わると、この日会場に来られなかった選手からのメッセージが流れる。が、ここで一つ間の抜けた出来事が。後半登場するであろう能活を近くで見ようと、反対サイドへ移動した私。おかげでメッセージの前半を聞き逃す。そして気が付くと今まで居た方のサイドで能活が練習しているではないか。なんと、両サイドの客に井原がよく見られるようにとの配慮か、サイドチェンジは無し。仕方なしにまた競技場を3分の1周して元の場所に戻った。

 後半は一転してサッカーらしくなる。絶え間ないイハラコールの合間に能活のコーチングが聞こえ、守備機会も何度かあった。山口のミドルシュートをはじき出したものなどはファインセーブといっていいだろう。足の怪我が長引き、結局12月はほとんどボールを蹴っていなかったようだが、キックは問題なさそうで動きも良く一安心だ。例によって、フィードは素早い。味方のチャンスに後方から拍手する姿も変わらない。岡野の素晴らしいボレーシュートが決まったときは、近くにいた坪井とハイタッチを交わしていた。
  その後も奥のシュートが決まって、井原の入った方のチームが3得点で無失点。自身の得点もあり、DFの引退試合とすれば上々だろう。終了間際、せっかくゴール前まで上がりながらシュートを打たずにパスを出してしまったのは、ご愛敬ということで。

 試合が終わると、能活は誰彼となく握手をしていた。井原の挨拶の後、場内を一周するセレモニーがあったが、その間は田中と会話。井原が戻ってきて選手達がもう一度ピッチに入るとき、飾りに使われた風船を一つ取り上げて遊んでみたり。途中カメラを向けられてピースサインをしているのを見たときは「きみは高校生かい」とつっこんでしまったが、後でオフィシャルサイトを見たらその写真が載っていたから、なじみのスタッフだったのでそんなポーズを取ったのだと納得した。

 長いセレモニーの間も帰る人は少なかった。私のように他の選手が目当てであっても、やはり長く日本代表を引っ張り123ものキャップ数を誇った井原正巳に対する感慨は、誰しも深いのだろう。国際試合で必ず見かけた日の丸の上に井原と大書した旗、あれを場内一周の途中で受け取ったのを見たときは、さすがに胸に迫る物があった。きっとドーハの悲劇もジョホールバルの歓喜も見てきた旗は、この日役目を終えたのだ。

 サッカーにはまるきっかけとなった高校選手権を見てからちょうど10年になる。マリノス初優勝・アトランタ五輪・仏W杯と夢中になって見続けてきたが、いつの間にか代表は“私たちの”という感情では見られなくなっている。川口選手が代表レギュラーに戻ったとしても、もう以前のようには熱中出来ない気もする。それでも、井原監督・川口GKコーチなんていう日が来るかも知れない。多分これからもサッカーを見続けていくことになるだろう。そんなことを考えた、井原引退試合の一日だった。    (文中敬称略)  
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