1.広島自動車道 太田川橋下へ

今回のツーリングは、私の地元広島は太田川。私にとっては、近くて遠い存在であったこの川での初カヌーだ。当然、私はホストであり、「どんなことがあっても失敗があってはならぬ!」と、前々週から2度も車での偵察を実施。気がかりなのは、梅雨空と鮎釣りということがはっきりとしてきた。

7月17日、午前11時30分、一行は、広島自動車道直下の太田川河畔に到着。今日のゴールとなる安佐北大橋からここまで、川沿いの道を辿ってくる途中も、あちこちに釣り士の姿を目にした。

「鮎釣りしてるとこだけは勘弁して!」と、いつも訴えている桂だが、予想に反し「これぐらいやったら大丈夫やないか。そりゃぁ長良川は凄かったもん。1メートルおきやで。」と、積極的な発言をした。ひとまずは安堵。

今回のツアーは、いつものメンバー桂、海野に加えて、地元からナビゲーターとして井上が参加。出発を前にして、我々は、鮎釣りの様子を眺めながら、井上の実家で作っている、佐賀名物「神埼うどん」を平らげた。

12時になると、釣り士達は昼食のため次々と岸に上がる。これを見て、「今こそ漕ぎ出でん!」と動こうとしたものの、結局、釣り士達が川に戻りきった1時20分頃のスタートとなった。

2.いきなりライニング

スタート直後からルート取りが問題となる。眼前の本流に釣り士の姿がある。この前を通るべきか、出口のない分流を下り、カヌーを担いで移動するか。すったもんだの末、海野と私が本流に進み、桂は分流へと向かった。 川幅は15メートル程度。その左岸から3メートル程のところに釣り士が川の中央を向き立っている。中央部は波が高く、隠れ岩も多く存在しており、万が一引っかかったらという思いから、カヌーを降り引いて下る。50メートル程度下流には、カヌーを担いで本流に向かう桂の姿がある。

最初の瀬を過ぎ、再乗艇して間もなく、次の瀬が現れる。瀬の途中に4本の竿が差し出されている。先を歩く二人の姿を見て、私も岸に漕ぎ寄せカヌーを降りる。流れが速く、足下をすくわれ、うまく歩けない。水中の石にも、何かしらぬるぬるすべるものが付着している感じだ。私は2度膝をつき、沈もしないのに全身ずぶぬれになった。

瀬の途中、川幅5メートル程に狭まった場所に、岩が突き出ており、水の行く手を遮る。「釣り竿が出ていなかったとしても、わしは行かんよ!」こう口にした私に対し、二人は反応しない。どうせ私は臆病者よ!

長く真っ直ぐな瀞場の途中、数カ所の土砂崩れの痕が現れる。6月29日の集中豪雨の爪痕だ。山に鋭利なくさびが打ち込まれたかのように、中腹に端を発した傷跡は、一気に流れ下り、道路を飲み込み川に至る。今、道路復旧のため、工事が急ピッチで行われている。

安芸亀山駅の下の河原に人影が見える。井上だ。今日のコースのちょうど中間地点。当初1時間を見込んでいた距離だが、既に倍の2時間が経過。速い流れ、浅い瀬、隠れ岩、居並ぶ竿に悩まされた結果だ。「後半はスピードアップせんと!」私は二人に檄を飛ばし、休む間もなく再出発した。

3.瀬を越えて

左側から流れ込む支流、行森川と合流するところで、川は右方向へ直角に進路を変える。行の車からは、この合流部近くに、白く波立つ瀬が見えたので警戒したのだが、さしかかってみると危険を感じるようなものではなかった。

しかし間も無く、今度は、激しい白波こそ見えないが、落差の大きな瀬が現れた。瀬の間近になっても落ち込む先が見通せない。「右から行くなぁ」と、先頭を切って進んだ桂が、隠れ岩にカヌーの先端をとらえられ、そのまま時計の針のように、右に180度旋回。流れに押されてこのまま沈!

と思ったところで、桂のカヌーは岩から解かれ難なきを得た。

「右やない左や!」と叫ぶ桂の言うとおり、2番手の私は左へ進路を取る。だが、目の前に大きな岩が突き出ていて、落差もあり先が見えない。本当に左か!?と思いながらも進んだ。落ち込みでカヌーが前傾して、やっと進むべきルートが見えた。

短い澱みの後、再び流れの幅は細くなり、長い瀬が現れる。その瀬には、左右互い違いに釣り人の姿が見える。先行していた海野がカヌーを左岸に寄せる。またカヌーを引いて行くつもりなのだろう。

この時、私はカヌーを降りずに漕ぎ下ると心に決め、流れの速い川の右端にカヌーを寄せた。スタート地点の瀬とは違い、水量が増し、岩に引っかからずに通過できそうだったからだ。背後から「行くの!?」と叫ぶ海野の声が聞こえた。

予想したとおり、水深は十分。あとは長い長い釣り竿を交わすのみ。「すみません!」を連発し、ひたすら頭を下げながら何とか無事に通過した。

今井田駅前にかかる赤いつり橋の手前、流れは右端に寄せ集められ、ひときわ激しい瀬となっている。スラローム艇2艇が瀬の出口で、ミズスマシのようにくるくる回っている。私の存在に気づき、バウを上流に向け静止し、私に突入を促す。沈してもレスキューしてもらえるだろうと思い、一気に突入。左肩から大波をざぶりと浴びながらも通過。スラローム艇の2人は、ファルトボートでここまで下ってきた我々に、あきれ顔だ。

 

瀬を無事通過した興奮もさめやらぬまま漕ぎ進むうちにうちに、本日のゴール安佐北大橋が視界に入る。泣き出しそうだった空から、雨がこぼれはじめた。この橋を少し過ぎたところで上陸。ここが柳瀬キャンプ場、今日のキャンプ地だ。

キャンプでは、広島風お好み焼きで賑やかな夕食となったものの、夜が更けるにつれて強さを増す雨に、すっかり気持ちは萎えてしまい、明日の予定であり目玉でもある、原爆ドームを見上げながらカヌーを漕ぐということについては、誰一人として口にしようとはしなかった。

翌朝、テントを這い出したのは、雨がやんだ8時。その後、だらだらと片づけをし、12時前にキャンプ場を後にし、近くのスーパー銭湯で垢を洗い流した後、それぞれの帰途についた。

この夜は雨のキャンプとなった

広島の夜は、やっぱりお好み焼き

太田川

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