雨の日置川ツーリング

 

.憧れの日置川は雨

午前10時紀伊田辺駅で海野・桂と合流。梅雨前線の影響で和歌山県地方は終日雨という予報だが、まだ雨は降っていない。曇ってはいるが空は明るく、今日はこのまま持つのではないかという期待も、すぐに裏切られてしまった。

がっかりしてため息をつく僕を、二人は冷笑する。「こんなの雨じゃない。平気、平気!」この二人、2週間前に行った大井川で、深夜、ダムの放水による急な増水に、テントを片づけ緊急避難をしたという。

恐ろしい話だ。同様のことが今夜起こるとは考えにくいが、雨の降り方次第では、絶対大丈夫と言えない。危険慣れして緊張感のない2人に懐疑的になってしまう。

僕にとって日置川は今回が初めて。桂と海野は一昨年の9月にここを訪れカヌーで下っている。その時の日置川は本当に美しかったようで、「10メートルぐらい下の川底の石についたタニシが見えた」と報告されている。桂はその1ヶ月後再度ここを訪れ、日置駅から中流域のえびね温泉までの約10キロを歩いて上り、清流を堪能したという。

12時30分、安居橋から少し奥まった河原でカヌーの組立開始。このころから雨足が強くなる。雨中の組立作業は実にいやなものだ。あと30分遅かったら、組み立てたりしなかっただろう。合羽を着、スプレーカバーもしていざ出発。

 

2.降りしきる雨の中

カヌーを静かに流れに乗せる。川に釣り人はなく、日置川は我々3人だけのものだ。いつもなら笑顔がこぼれるところだが、今日は桂も海野も険しい表情を崩さない。こんなに降りしきる雨の中でカヌーに乗るのは初めてだ。

パドルを止め川面に目をやる。雨粒は、川に着水したところで一粒の泡となり、水面を滑らかに走る。雨足が強くなるとこの泡の数が増え、忙しげに駆け回る。

降りしきる雨の音には、川面をたたく音、カヌーをたたく音、合羽をたたく音の3種類がある。中でもカヌーを敲く音は豆太鼓のように小気味よい。

雨が小降りになると、目の前がにわかに明るくなり、両岸の山々が姿を見せる。これまで聴かれなかったウグイスの歌声も響き始める。

雨粒が踊っていた川面も、穏やかになる。透明度は高いようだが、残念なことに、水面はどんよりとした雨雲ばかりを写し、底は見えない。「おかしいな。こんなはずじゃないんやけど…。残念やなぁ。」桂は同じ言葉を何度となく口にする。

口ヶ谷の橋をすぎる。この橋の橋脚部分が中州になっており、車で下見した際は、キャンプも可能のように見えたが、川から見ると、中州が低く水面とほとんど同じレベルでありキャンプに適さないことがはっきり解る。この雨では危険だ。

日置川

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