4.美々橋 → 第二美々橋

1時30分、テントを片づけ下流に向けて出発。上流と同様蛇行した細い川が続く。水深は増し1m程度だが、川幅は上流よりも更に狭い場所もあり、カヌーの両脇をヨシがかすめることが何度となくあった。

湿原に生い茂る植物たちの発育はよく、川面から壁のようにそびえ視界が遮られる。このため、カーブでは大変スリルがわく。ただ、流れは緩く、たとえ草の壁につっこんだとしても沈することはないだろう。カッコウの声が響く。美々川は大変愉快だ。

鉄橋ともう一つ橋をくぐった後、西側から流れ込んでくる支流、幅が広く水量の豊富な美沢川と合流し視界が開ける。川の中にはこれまでと同じように様々な水草が生い茂っている。水中で咲く黄色い花(コウホネ)がひときわ目についた。

川の両岸には引き続き草の壁が続いている。が、ところどころ壁がとぎれ、外から見ると迷路のように見え興味がそそられる。何か変わった生き物との出会いを期待してその中の一つに入ってみたが、すぐに行き止まりとなり、草たちの残骸が醜く吹きだまっていた。

流れに戻る。後方の桂が一向に姿を見せない。「何か珍しいものでも見つけたのかな」と思いつつのんびり下る。途中サケの定置網が仕掛けられている場所で上陸。この日唯一上陸可能な場所だ。ここには柔らかな草が生えており心地よい。横になって桂を待つことにしようと、しばしうとうと。

目が醒め時計を見ると4時10分。20分間の昼寝。桂はいない。どうやら迷路で遊んでいるうちに抜かされていたようだ。急いでカヌーを川に戻し力を入れてパドリング。どれだけ離されたのか見当もつかない。

 

 

しばらく漕ぐと彼方に第二美々橋が見えてきた。橋に人影がある。桂だ。漕ぎ出して20分で、第二美々橋に到着した。「どないしとったんや。4時からまっとったんやで!」激しい言葉が待ちかまえていた。

第二美々橋は上下二つの橋で構成されている。橋はそれぞれ3m程度の広い歩道に3車線の車道がある、合計6車線と広い歩道2つという美々橋を遙かにしのぐ立派な橋だ。橋までの道路は両側2車線で、第二美々橋の内、実際に使われているのは上流側の橋の2車線だけだ。下流側の橋には柵が設けられており、道路からは完全に遮断されている。

今宵は橋の横でキャンプ。残りの食料も乏しかったため、橋の隣にあったジンギスカンハウスへ踏み込んだ。スコップで運ばれてきた燃えさかる炭火を前に生ビールで乾杯。食後にはよく冷えたワインを2本買いキャンプサイトに持ち帰った。何という贅沢か。

 

5.第二美々橋 → ウトナイ湖

翌朝は7時起床。天気は曇り。片づけを済ませ10時に出発。

湿原は一段と広さを増し、遙か先の林からキツツキの刻むリズムが響く。心地よい漕ぎ出しだ。下流から吹き上げる風が気になる。

漕ぎ進むと前方にかるがもの親子が現れた。我々に気づき、雛達は慌てて草の壁の中に身を隠すが、親鳥は隠れず、羽で激しく水面をたたきながら20メートル程下に移動した。我々は脅かすつもりはないが、逃げる方向に進んでいるのでまた近づいてしまう。すると再びバタバタと羽音を響かせながら下流に移動する。

親鳥はこれを数百メートルに亘って何度となく繰り返した。その仕草に、「どうやらこの鳥は右の翼に障害があるようだ」と思った矢先、彼の鳥は飛び立ち、弧を描いて、遙か後方、最初にいた場所あたりに戻り姿を消した。雛達にとって危険な存在である我々は、巧みに下流におびき寄せられ、雛から引き離されたのだった。

吹き付ける風が強さを増す。肌寒い。空はどんよりと曇ったままで、風に負けじと全力でこぐが体は一向に暖まらない。風邪を引いたのだろうか、頭痛がする。植苗橋で上陸し、シャツを一枚重ね着した。

再出発してまもなく、一人の釣り人が現れた。ウグイを釣っているという。曰く、「去年はここで釣れたんだけど、今年は全くダメです」そういえば我々も全く魚を目にしていない。足の踏み場もないほど魚がいると期待していたのに…。

釣り人のいる場所で川は二手に分かれる。地図には分流が記されてないのでどうしたものかと思案していたところ釣り人から、「左は狭いから右ですよ!」と声が掛かり右に進路を取る。

我々が進んだ右側の川は、左右に森の木々が迫る中を5mほどの川が真っ直ぐに延び、これまでの光景とは全く異なる。最初は絶景だと思ったものの、その不自然さに促され急いで地図に目をやりびっくり。蛇行する本流の脇に、水色の細い直線が描かれている。ショートカットの水路だ。ここは流れも速く、300m程の水路はたちまち終わった。少々損をした気分だ。

地図で確認するともう一カ所水路がある。今度は間違わないように自然の流れを進もう。

ショートカットされている区間の自然の川は、幅4m程度と狭く流れも大変遅いが、水路が終わり再び流れが一つになると心なしか流速が増す。しばらく漕いでいると突然大きな昆虫採集用の網を持った男性が左岸に姿を現す。もうウトナイ湖は間近だ。

数分後、心なしか流速が増しころで視界が一気に開けた。最終目的地ウトナイ湖に到着。サンクチュアリで遊ぶ白鳥をバックに記念撮影。11時50分。

森の中の水源から河口とも言えるウトナイ湖に至る全行程が脳裏を駆け抜け、充足感で二人の顔はほころんだ。

 

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