
美々川 2025.7.1〜2
’90年代から2000年代にかけての十数年の間、仲間たちと「まぬけカヌークラブ」を名乗り、国内あちこちの川へと出かけツーリングカヌーを楽しんできたのですが、使用していたカヌーは老朽化のため既に処分済み。湧水巡りや野鳥観察と興味が広がっていったこともあり、近年カヌーからはすっかり遠ざかっていました。それでもカヌーや川への思いは変わらぬまま、ある日ネット見ていると「ひとり旅(一人旅)北海道美々川カヌープラン」というのが目に留まりました。美々川は1998年に、仲間の一人桂くんと二泊三日でキャンプをしながら下った川です。「ひとり旅プランはいいね。これは行かなきゃ!」って直ぐに予約しました。27年ぶりの美々川は何を見せてくれるのかワクワクします。さあ出発だ。
1.美々川に到着
7月1日14時20分JR植苗駅で電車を降り、駅前でGatewayToursの專齊さんと合流。今回はGatewayToursの「ひとり旅(一人旅)北海道美々川カヌープラン」を利用させていただきます。元々は16時スタートを予約していて、植苗駅から集合場所タップコップ親水公園まで1時間ぐらいかけて歩くつもりだったのですが、当日特急北斗での移動中に「植苗駅まで迎えに行きますので14時半スタートにしましょう」と電話をいただき、予定が前倒しとなりました。1時間歩く必要はなくなり、陽の高い時間帯にカヌーができ、終った後にウトナイ湖辺りを散策する時間も確保できそうなので大変助かります。幸先いいぞって、胸を弾ませながら、專齊さんのワゴン車に乗りこみました。
車中で、美々川は27年ぶりで、前回は美々川源流の湧水からウトナイ湖までカヌーで辿ったことなどをお伝えしました。すると專齊さん、「湧水みてみましょう」と途中で車を止め、道路脇の湧水に案内してくれました。湧水はそのまま小さな流れとなります。湧水巡りの趣味もある私にとって願ってもないこと。私は夢中で写真を撮り、水の中に手を浸しました。再出発し第二美々橋カヌーポートに到着。第二美々橋には見覚えがあります。前回はこの橋の上流側のちょっとしたスペースにテントを張りキャンプしました。確か、このカヌーポート辺りには小さなホテルがあったはず。專齊さんに尋ねると「はい、ありましたよ。でもだいぶ前に廃業し取り壊されました」とのこと。私の記憶に間違はなさそうです。
2.「ひとり旅プラン」スタート
いよいよカヌー。ライフジャケットを付け、カヌーポートに置いてあった赤いカナディアンカヌーに乗りこみます。もちろん前席、專齊さんは後席に座りカヌーを操縦してくれます。「いざ出発!」青空の下、意気揚々の船出。気分は最高潮。
「うわぁ気持ちいい。やっぱカヌーはいいな、川はいいな」笑顔で声が弾みます。「前回はここでキャンプしたんですよ。こんなに木は生えてなかったです」と、橋手前右岸の茂みを指差します。橋の下流側左岸の大きなログハウスを見て、「前回キャンプの晩ご飯ここで食べたんです。焼肉に生ビール、贅沢しました。懐かしいなぁ」と夢中でしゃべりまわってしまいました。ログハウスの写真を撮ってると、「あっちのレストランで食べている人がカヌーを見つけ、写真を撮ることはあるでしょうけど、その逆は初めてですよ」と、專齊さんはあきれ声。そして二人で大笑い。愉快、愉快。
「黄色い花が咲いています。コウホネといい漢字では『河骨』と書きます。根が白くごつごつしていて、川底に骨がある様に見えるからなんだそうで、漢方薬にも使われます」と專齊さん、丁寧に説明してくれます。私はというと写真パチパチばかり。気が付けばパドルは足元、全く漕いでいません。「すみません、何にもしなくて」と言いつつも、何もしない楽ちんな川下りに大満足。漕いで早く進むより、何もしないで少しでも長い時間カヌーに乗ってる方がいいって感じ。向かい風が吹き專齊さんは大変でしょうが、お任せでのんびりさせていただきましょう。
「左に支流の流れ込みがるので、漕ぎ寄せましょう。最初に見ていただいた湧水が、この小さな川となっています。」
カヌーはすーっと浅い砂地に乗り上げ停止。專齊さんはカヌーから降り、流れ込みの中にカヌーを引き込み安定させてくれます。すぐそこで湧き出した小さな流れは透明で清らか。川底の小さな砂粒をさらさらと動かしながら流れ、カヌーに座る私の真下で本流と一つになります。私は座ったまま手を水に浸しました。
3.ラピダス
再スタートして間もなく、今度は右側の砂地に着岸し私も上陸。ここで專齊さんはパネルを使い、美々川について説明してくれます。太古の昔ここは海の底で、北海道は東と西に分かれていました。支笏の火山噴火による堆積物で間が埋まり、北海道は一つになりました。千歳空港辺りが分水嶺で、こちらが太平洋側、向こうは日本海側になります。分水嶺としては一番低いので、古来アイヌの人たちは、木をくり抜いたカヌーで美々川を遡上し、陸路を進み、千歳川でから日本海へと下りました。ここは重要な交易ルートで、縄文時代の遺跡からカヌーやパドルも発掘されているそうです。
アイヌの言葉も教えてくれました。美々は沼がある所、植苗は泥がある所、ウトナイは肋骨の様にいくつもの川が流れ込む所だそうです。
專齊さんから、最近の美々川周辺の事情についてもお話しいただきました。
「美々川源流部辺りは、今ラピダスの建設工事がされています。」
「ラピダスって何ですか?」
「半導体を造る会社です。国策として最優先で工事が進められています。最初はここの地下水を使うって事だったんですが、他の水系から水を運び込む事になりました」
ラピダスを知らないなんて恥ずかしい限りですが、專齊さんの話を聞いているうちに、以前新聞で「千歳空港での半導体工場建設が決定。半導体製造には大量の良質な水が必要となり、その水が確保できることが建設場所決定要因の一つ」という記事を読んだことを思い出しました。記事を読み「千歳空港近くで良質な水確保って、美々川の水を使うのかな。そんなことして大丈夫かな」って思ったのですが、すっかり忘れていました。情けないです。
ついでですが、「他の水系から水を運び込む」ってのが気になったので調べてみると、北海道庁のホームページに掲載されている「令和6年度 第1回北海道次世代半導体産業立地推進連携会議 議事録」に、北海道地方環境事務所長からの説明として「当初の美々ワールド千歳工場団地の地下水から取水する案では、美々川の水位低下により、ラムjサール登録湿地であるウトナイ湖への影響、さらにはウトナイ湖周辺における自然生態系への影響等を危惧しておりましたが、有識者懇話会により、苫小牧東部地域の工業用水である安平川からの取水計画が決定されたことを受け、ウトナイ湖をはじめとする自然生態系への影響は解消されたと思っています」と記録されています。安平川(あびらがわ)は美々川の東側を流れており、ウトナイ湖から流れ出る勇払川は安平川と合流し、安平川として太平洋に注ぎます。
もう一つついで、ウトナイ湖からの流出河川、現在勇払川ですが、手元に残る平成6年4月1日国土地理院発行1/25,000地図ウトナイ湖では美々川と表記されています。勇払川が、1994年〜97年(平成6年〜9年)の河道切替工事によりウトナイ湖に流入するようになったため、より大きな河川である勇払川に流出河川名は変更されたのです。川の名前も変わっていくんですね。
4.ベニマシコ
再びカヌーに乗って川の上。川面に野鳥達の声が響き渡ります。川幅が少し狭くなり、両岸に河畔林が迫ってきました。右岸の葦の茂みから赤い鳥が二羽飛び出し、目の前を横切り左岸の蘆の中へ。「ベニマシコですね」專齊さんと私、二人同時に声を発しました。前回ここに来た頃は野鳥への関心はなく、鳥の名前は全く分かりませんでした。ウトナイ湖がバードサンクチュアリで、カヌーでは立ち入れないことに不満を感じてもいました。そんな私も、10数年前のある瞬間野鳥に魅せられ、今ではすっかり野鳥の虜。でも待てよ、、前回の美々川での朝出会った、大きくて黒く頭の赤いキツツキの姿がはっきり思い出されるってことは、私が最初に野鳥を意識したのは、ここ美々川だったのかもしれない。湧水巡りにしても、本格的に取り組んで20年ほどですが、最初の場所は美々川源流の湧水です。あの頃は、ただがむしゃらにカヌーをし、キャンプを楽しむことが目的だったのですが、美々川での出会いがその後の私に大きく影響を及ぼし、より豊かなものにしてくれたんだと改めて感じました。私にとって美々川は本当に大切な川です。
目の前に植苗橋が見えてきました。欄干には横断幕が掛けられています。「終着点 〜カヌー等をご利用のみなさまへのお願い〜 これより先は自然保護のため進入をご遠慮ください」と書かれています。前回このような表示はなく、私たちはウトナイ湖直前までカヌーで進みましたが、今はもうできないですね。この橋の手前、美々川タップコップ親水公園のカヌーポートが今日のゴール、無事到着16時です。專齊さんには道の駅ウトナイに隣接する「ウトナイ湖野生鳥獣保護センター前まで車で送っていただきました。閉館時間は17時ですので、たっぷり見学できます。ウトナイ湖畔も散策してみよう。



5.源流は見つからず美々橋へ
美々川二日目、今日はレンタカーで回ります。先ず目指したのは源流の湧水。前日專齊さんから「北側から進入できる道がありそうです」と聞いていたので、持参していた1/25,000地図には点線で表示されている細い道、ナビにもあるその細い道の先端を目的地設定し出発。順調に進みますが、細道があるはずの場所でナビに「左折です」と言われても、そこに道はありません。道路左側は灌木が切れ目なく続き、かつて道があったことを思わせる痕跡もありません。藪をかき分けて進むわけにもいかないので、この先は断念。次の目的地である前回初日のキャンプ地、美々橋に向かうことにしました。
美々橋周辺はすっかり様子が変わっていました。前後の砂利道は、今車で走った立派な舗装道路になっています。テントを張りキャンプした、橋の上流右岸には、工事用の鉄パイプがめぐらされ、盛土の上に大きな重機が乗せられています。そのパワフルな姿には驚かされましたが、そもそも空き地と思ってキャンプしたこの場所は、美々橋を架ける際の資材置場だったのでしょう。橋が完成したことで放置されていたところに、我々が入り込んでキャンプをした。そして今また何らかの工事が行われているんだと、考えを巡らせ現状理解に努めました。「今は美々橋から上流へカヌーで行くのは難しいです。道(北海道庁)が時々草刈りをしていますが、放っておくと草で埋め尽くされます。水も流れなくなるほどですよ」
昨日の專齊さんの言葉が思い出されます。美々橋の上から眺めてみると、確かに橋の少し先は全体に蘆が広がり、川面を見ることはできず、ここをカヌーで遡上できるとは思えません。前回来たときは、たまたま草刈りされた後で、ラッキーなタイミングだったのかもしれません。
ラピダスを見てみよう。ここに来る途中、新千歳空港横の国道を車で走っているとき、何本ものクレーンが平原の中に立ち上がっているのが見えてました。あれはラピダスの建設現場に違いない。国道までのどこかで見えてくるだろうと、美々橋を後にし西へ進みました。すぐに工事エリアに着きましたが、入口にはゲートが設けられており、立ち入ることはもちろん、中を覗くことはできず、クレーンも見えません。仕方なく横の道へと進み、ビューポイントを探しましたが、立ち並ぶクリーンセンターの建物群が目隠しとなり、全く視界が開けません。とうとう一番奥まで行ってしまったので、空いたスペースに車を止め歩いてみて、漸く建設用のクレーンを見ることができました。新世代半導体の製造がうまくいき、周辺の環境も保全され、みんなの幸せが増していくよう思いを込めて眺めました。
6.再び第二美々橋
正午近くになり、昨日のカヌー出発地である第二美々橋を再び訪れました。橋の上をゆっくりと歩き、中央辺りから上流を眺めます。ここは桂くんが、下ってくる私の写真を撮ってくれた場所。電線も、数が増えたけど同じ位置です。橋から見る景色は27年前とほとんど変わっていないです。変わっていないというと第二美々橋。上下二つの橋で構成されているこの橋、使われているのは、今も前回も上流側のみです。下流側の入口は草ぼうぼう。いつか活用されるといいんだけどなど思いました。
第二美々橋のすぐ横にある「和牛レストラン ログハウスびび」、昨日はその横をカヌーで通過しましたが、今回の美々川旅の最終目的地です。前回も食事をした思い出の場所で、ランチを食べて締めくくる。平日のお昼というのに、何組ものグループが、賑やかにお肉を焼きビールやワインを飲みながら、楽しそうに過ごしています。私は運転があるのでビールは呑めませんが、とにかく美々川に乾杯!
美々川くんありがとう。また来るからね!