Last Update 98-11-25
トヨタ アルテッツァについて
久々の「イケてる車」、トヨタ・アルテッツァについて。
Heiny-Meederの自動車観で見た
トヨタ・アルテッツァに対する渾身のReportです。お好きな方はどうぞ。
11月3日、トヨタ アルテッツァを見て来ました。私、Heiny-Meederは大学時代に自動車部に所属していた事もあり、車関係は好きなんです。しかし、最近はRV系の台頭で車そのものがちっとも面白くなくなってしまい、雑誌もほとんど読まなくなってしまいました。そんな私が久々にディーラーへ行こうと思った理由は「2L・FR」という新聞広告のキーワードからでした。以下、Heiny-Meeder風に分析してみましょう。(乗った訳じゃありませんから、見た目だけです。)
一通り見て感じたのは、「ああ、日本車もやっとバブルの清算が終わったな」という事です。一言で言ってアルテッツァは「どこをとっても非常に軽量」なんです。
とにかく、エンジンが凄い。ベーシックグレードが1G-FE(6気筒)で、上級グレードが3S-GE(4気筒)です。思わず「逆だろ?」と言ってしまいそうですがこれで正解です。これは、考えてみれば非常に凄い事なんです。この車は、マルチシリンダー=偉い
という今までの価値観を根底から覆してしまいました。
では、なぜこのような事になったのでしょうか。考えられる理由は二つ、燃焼効率と重量バランスです。
同一排気量において、4気筒と6気筒、どちらがパワーが出るか、と問われれば、間違いなく「6気筒」と答えますよね。これはこれで間違っていません。しかし、ここでいうパワーとは、あくまでも「ピークパワー」の話です。パワー=回転数×トルク ですから、動弁系を軽く出来る6気筒は最高回転数を上げられる為パワーが出せる訳です。しかし、ここに大きなトリックがあります。実は、市販車においては、4気筒も6気筒も最高許容回転数はそうは変わらないのです。
なぜでしょうか。回転数(パワー)を上げる為には (1)動弁系を軽くする、(2)部品の精度(バランス)を上げる、(3)クリアランスを詰める、全て正解です。しかし、もっと大切な事があります、それは、(4)潤滑です。高回転、高出力の代表格であるレーシングエンジンでは、メンテナンスのサイクルがきちんと決められていますし、それを怠るとどうなるかみんな知っています。しかし、市販車においてはそうはいきません。こまめにエンジンオイルを交換する人、一万キロ以上走って交換する人、警告灯が付いてから注ぎ足す人 (信じられます? いるんですよ、こういう人。)想定されるケースは様々です。市販車という以上はこれらに対応する必要がある訳です。(1)〜(3)は、メーカーの努力でどうにかなりますが、(4)はどうしようもありません。つまり、市販車には「ユーザーの使い方」というどうしても越えられない壁があり、潤滑に必要なクリアランスと最高回転数は、自ずと決まって来るのです。まとめると、
・技術的には4気筒より6気筒の方が回転数(パワー)を上げられる。
・しかし、ユーザーの使い方を想定すると、劣化したオイルでもエンジンが壊れないようにする必要がある。
・その為には、クリアランスを多く取り、最高回転数を(ある程度のところで)抑える必要がある。
であり、
・安全を維持できる回転数は4気筒も6気筒も同じ
(「7千回転」は4気筒にとっても6気筒にとっても「7千回転」である。)
ということになります。そうすると、市販車における最高回転数は(経験的に見て)大体8千回転くらいですから、(これは4気筒も6気筒も変わらない)メーカーとしては最大9千回転くらいを狙って設計すればいい訳です。アルテッツァの3S-GEはチタンバルブを使い、動弁系の軽量化を図り、最高回転数を稼いでいます。最高回転数がクリアになれば、車を走らせる上で日常的に使用する領域では、4気筒の方がはるかにパワフルですから、パワー感、実用燃費共に6気筒より優れたエンジンを作る事が出来ます。
余談ですが、3S-GEはVVT-iになってヘッド周りがかなり変わったようです。可変バルタイが付いたから当然ですが、バルブの挟み角がかなり狭くなっています。昔のトヨタの「スポーツツインカム」は、「ハイメカツインカム」に比べて広いバルブ挟み角(ハイメカ:約23度、スポーツ:約50度)によるメリットを強調していましたが、挟み角度は狭ければ狭いほど燃焼室表面積が減少し、燃焼効率が向上するので時代の流れに合っていると言えます。
それにしても、歴代の「3S-GE」を並べてみたいものです。初代「カムリ」に積まれた初期型から、アルテッツァまで、「エンジンの進化」がよく分かるでしょうね。(半分褒めていて、半分イヤミです。名前変えた方がイイよ、絶対。)
4気筒を使った事のメリットは、重量バランスにも現れています。アルテッツァのエンジンルームは、エンジンの前が約20cm空いていて、見た目はスカスカです。これはつまりフロントのオーバーハングの重量が非常に軽い事を意味しています。見たところ、アルテッツァは前後の重量バランスとZ軸方向の慣性マスの低減を非常に重視したデザインのようですね。前述の4気筒エンジンの他、後退したキャビンといい、小さいトランクといい、前後の重量バランスは非常に良さそうです。また、ドライバーの位置も、軸間のちょうどセンター付近にあり、いかにも「スパッ」と曲がりそうです。素晴らしいです。
このように、マーケティング上では絶対に許されない「6気筒より4気筒の方がいい」というエンジニアの意見がマーケティングの論理に勝った事、この事こそ、この車の凄いところであり、賞賛されるべき所でありましょう。
ただ、唯一イチャモンを付けたい所はタイヤですね。ディーラーで見たアルテッツァは多分オプションだと思うけど245-45ZR17!
を履いていました。
2LのNAだぜ!この車。「自動車雑誌の筑波アタック対策」(NAでは最速でしょうね)と思われますが、ここだけは、バブルの後遺症がまだ抜けていませんね。この車であれば、225-50/16くらいにして、重量バランスの良さを生かして適度に滑るセッティングの方が良いんじゃないかな。
また、この車は横幅が1720mmあるため、残念ながら5ナンバーではなく3ナンバーになってしまいますが、これはアルテッツァが輸出も考慮しているからであり、致し方ないと言えましょう。
現在においては、日本の5ナンバー枠の横幅基準は世界標準から外れています。その為、外国ではコロナクラスの車なのに、日本に来ると3ナンバーになってしまう(つまり上級クラスの扱いになってしまう)というケースがかなり多いです。これは一種の非関税障壁でもあり、5ナンバー枠そのものの基準を早急に見直す必要があると思います。
最後に、冒頭で書いた「バブルの清算」についてお話しましょう。
バブルの頃は凄かったですね。エンジンに限って話をすると、「フルラインV6」を掲げて「世界最小、1.8LのV6」をこともあろうにファミリーカーに載せて売ったM社をはじめ、各メーカーがこぞってV6を開発していましたね。しかも全て判で押したように高出力、高回転型。私の車は某M社の2LのV6ですが、7200rpmまで回る代わりに低速トルクはスカスカ、ハイオク仕様で街乗燃費6km/Lといった具合です。2Lでこれですから、前述の1.8LのV6はさぞかし酷かったでしょうね。
そう、これこそが「マーケティング」の罪であり、低速トルクが全くなく、街乗りトロい、燃費悪い、コスト高い、というユーザーにもメーカーにも全くメリットのない車を生み出してしまったのです。
我々が実感したバブルの反省は、「過剰からの回帰」だと思います。パワーが上がる、タイヤのグリップが上がる。コーナリング速度が上がる。といった具合に世の中全てが「もっと、もっと」と求めた結果、車はどんどん大きく、重くなっていく。スピードの上昇はドライバーから「適度に飛ばす」 楽しみを奪い、本当に攻めようとすると、残っているのは「恐怖」だけ、バブルの最盛期から現在にかけて行き着くところまで行っちゃったんですよ。オーバー3L、シーケンシャルツインターボ、4WD、4WS、ABS、ヨーコントロールアクティブサス、1.8LのV6、これらのハイテクは一体我々に何をもたらしたか?
アルテッツァは、その辺の所の見切りが見事です。特にシャシーに関しては全くと言っていい程制御が入っていませんね。これこそが、冒頭に述べた「バブルの清算」なのです。過剰を追わず、肩の力を抜いて「ベストバランス」を追求する。もうちょっと言えば、ハイテクデバイスを省略し、浮いたお金で(もう一台 !じゃなくて)基本の所にお金をかける。そう考えてみると、バブルとは、「今があるための壮大な試行錯誤」と言えるかもしれません。
ディーラーの人の話によると、この車の滑り出しは極めて順調で、発表前から百台以上のバックオーダーがあり、カタログも飛ぶようになくなったそうで、いまだにカタログも手元にありません。不景気なこの御時世に、こんな事もあるというのは嬉しい限りです。みんな、こんな車を待っていたんだと思いますね。最近は、出てくる車は全てRVで、しかも「ワンボックスに3.5Lを載せた」と言うような物ばかり。ワンボックスはその構造上、ロールセンターも高いし車重も重くなる。また、ボディ剛性も上げにくい為、過剰なパワーは危険であるという認識はメーカーが一番よく知っているはずですが、マーケティングの論理に押されて、技術者が「いいのかなぁ」とつぶやきながら作っちゃう。
で、買ったお客さんは高速乗ったらやっぱりフラフラするんで次に出るのがローダウンサスとワイドタイヤ。245-45ZR17にメッキホイールっすよ。過剰性の堂々巡り。何やっているかわかんない。私は、そういう記事を見ながら、「ケッ、バカじゃねえの。」とつぶやき、だんだん車趣味から離れて行ったのです。
今回、久しぶりにディーラーに行った私は、すっかり喜んでしまいました。これは売れるハズですよ。作った人の「気」が入ってます。作った人がまず「欲しい」と思う車。アルテッツァはそんな車ですね。同時に、離れていった車好きを呼び戻す事が出来る車。そう言ったら褒めすぎですかね。いずれにせよ、こういう車がもっと多くなれば景気も回復するかもしれません。
以上、水曜日から今日まで、まさに睡眠時間を削ってReportしました。よっぽど気に入ったんです。 カタログもないので、実車のディテ−ルについては多少の間違いもあるかもしれませんがご勘弁を。オリジナリティを尊重する為、自動車雑誌が出揃う前にUPします。また試乗などしたらReportしますので、お楽しみに。
1998-11-20追記
ベストカーを買いました。勿論、アルテッツァの記事を見る為です。ベストカーは、高校の頃から結婚するまで約10年間買い続けましたが近年のRVブームで買うのをやめていたのは先週書いた通りです。関係ない話ですが、私、Heiny-Meederはベストカーに「損大寺
無効」のペンネームで一度だけ(冗談みたいな)記事を書いた事があります。その頃私は浪人生で、一度目の記事が掲載された頃、ちょうど二年目が決まった事もあり、次を書くのをやめてしまったのでした。
今から考えると、当時はいくつかの出版社にも出入りしていた事もあり、あのままやっていれば「カーツ佐藤」氏と同じ系列のライターとしてやっていられたんじゃないか、人生ちょっと変わっていたかもしれないな、と思う事もあります。(笑)
さて、アルテッツァですが、先週書いた事は、あながち調子っ外れではなかったなと思いますね。重量バランスの件にしても、タイヤの件にしてもおんなじような事が書いてありますね。それにもっともらしい理由をつけて、更にバブルについても言及している先週のレポートは、一応及第点を付けられるんじゃないでしょうか(自己満足モード)。
ただ一つ、タイヤサイズは間違えてましたね。正しいサイズは215-45/17でした。
で、ベストカーの記事ですが伏木悦郎さんがアルテッツァを購入してましたね。買うんじゃないかと思ってましたがやっぱり買いましたか。それにしても、伏木さんがベンツの190Eをまだ乗っていたというのは驚きですね。確か、190E買った時に「国産で良いのが出るまでこれに乗る」と言ってましたから、その約束を果たした事になります。たいしたもんです。190Eの読者プレゼント、応募しちゃおうかな。
あとは、ベストカーの筑波タイムアタック(予告見てるとやらないみたいだけど、ぜひやって欲しい)と、NAVIの大川、舘内、徳大寺3氏が、どう論評するかですね。語るぞ〜、絶対。
とにかく、アルテッツァは素晴らしい。欲しいです、これ。
しかし、現実はそんなに甘くはない。この前ディーラーに行った時、妻はアルテッツァなんかには目もくれず、ラウムに直行。挙げ句の果てには「これだったら買ってもいいなー」だと。
既婚、子持ちの車趣味は一日にしてならず、ですね。