ゆくすゑを

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『後拾遺和歌集』第二、春下

    
白河にて、花の散りて流れけるをよみ侍りける 
 
146 
行く末を せきとどめばや 白河の 水と共にぞ 春もゆきける
 
『後拾遺和歌集』第三、夏

    
夏夜月といふ心をよみ侍りける

222
 夏の夜の 月はほどなく 入りぬとも 宿れる水に かげをとめなん

『金葉和歌集』第三、秋

    
対山待月といへることをよめる 

214 有明の 月待つほどの うたたねは 山の端のみぞ 夢に見えける 

『千載和歌集』第四、秋歌上

    七夕後朝の心をよみ侍りける

241
 天の河 心をくみて 思ふにも 袖こそ濡るれ あかつきの空

『新古今和歌集』第七、賀歌

    祐子内親王家にて、桜を

713 君が世に 逢ふべき春の 多ければ 散るとも桜 あくまでぞ見む

【通釈】
    
    白河で、花が散って流れていったのを詠みました歌
   
  川の流れの行く先を下流でせきとめたいものだ。
  白河の水と共に、春も流れ去ってしまったよ。

    「夏の夜の月」という心を詠みました歌

  夏の夜の月はすぐに隠れてしまったとしても、せめてその光は
  映っていた水に、そのまま留めておいてほしいことよ。  

    山に対して月を待つ、ということを詠んだ

  有明の月を待っている間にうたた寝をすると、月が出てくると思って
  眺めていた山の端だけが、夢の中に出てきたことだ。
 
    七夕の後朝の心を詠んだ歌

   天の河の水を汲むように、七夕の夜に逢った牽牛星と織女星の心を
  思いやるにつけても、まあ袖が濡れてしまう、暁の空であることよ。
 
   
    祐子内親王家で、桜を詠んだ歌

  わが君の御世は長く、したがって出逢う春の数は多いのだから、
  今年は散るとしても、桜を夜が明けるまで、飽きるまで眺めよう。

【語釈】
●白河……白川とも。白川(京都市左京区を流れる川。比叡山に源を発し、祇園あたりで鴨川に合流する)の流域一帯の地名。古くは鴨川以東、東山との間の地区を指した。
●せきとどめばや……せきとめたい。「ばや」は願望の終助詞。
●夏夜月……土御門邸で行われた小規模な歌合か。藤原家経・藤原範永の家集、源資通の歌にも見え、同日詠と考えられる。
●ほどなく……形容詞「ほどなし(間がない、あまり時間が経たない)」の連用形から、まもなく。
●宿れる水……月の光が射していた水。
●かげ……光。
●有明……陰暦十六夜以降、月がまだ空に残っていながら夜が明けようとするころ。またそのころの月も指した。時間的には暁の次に有明になるとされる。
●山の端……山の稜線。
●あかつき……暁。夜の明けるころ。東の空が白み始めるころ。夜明け方。古くは夜半過ぎから明け方までを指した。
●心をくみて……思いやる、斟酌する。「くみ」「河」「濡るれ」は縁語。
●あくまでぞ見む……「明く」と「飽く」を掛ける。