久しくおとづれぬ人を、思ひいでたるをり
79 忘るるは うき世のつねと 思ふにも 身をやる方の なきぞわびぬる
返し
80 誰が里も とひもやくると ほととぎす 心のかぎり まちぞわびにし
【通釈】
長い間、訪れていない人を思いだした折、
人のことを忘れるということは憂き世の常のことだと思うけれど、この思いを抱くわが身を
持て余し、どうすればよいのかわからず、泣いてしまうのが侘びしいことだ。
返事
誰のところへも訪れるというほととぎすだから、心を傾けて待っていたのに、
来てくれず待ちくたびれてしまったことだ。
【語釈】
●久しくおとづれぬ人を……長い間、訪問していない人を。「人」は諸説ある。
・夫、宣孝を指す。 『全評』『集成』『経緯』
・夫ではないが別れた恋人 『評釈』
・宮仕え後、疎遠になった友人 『大系』『国文』
・夫でも特別な関係でもない人 『論考』
●忘るるは憂き世の常……人のことなど、すぐ忘れてしまうのは人の世の条理。
●身をやる方……自分の身の持っていくところ。
●誰が里も訪ひもやくる……ほととぎすは、誰のところへも春の訪れを告げに来るというので。
●心のかぎり……ありったけの心で、一心に。
●待ちぞわびにし……待ち焦がれたことだった。
【参考】
『新古今集』夏、204
「(詞書なし)誰が里も 訪ひもやくると 時鳥 心のかぎり 待ちぞわびにし
(小山本など、吉田本などは「待つぞわびにし」、八代集抄などは「まちぞわびにし」)」