かずならぬ

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    身を思はずなりと、なげくことの、やうやうなのめに、ひたぶるのさまなるを、思ひける

55 数ならぬ 心に身をば まかせねど 身にしたがふは 心なりけり

56 心だに いかなる身にか かなふらむ 思ひしれども 思ひしられず

【通釈】
    
    自分の身の上が予想していた通りにはいかなかったと嘆くこことが、
    次第にいつものこととなってきて、さらにひどく一途に思い詰めている自分の有様を思って

  我が身が予想していた通りにならなかったと嘆く、所詮は人数でもない、
  至らない心で我が身を占めるつもりもないが、
  我が身にいつもついてくるのは、やはり嘆きの心であることだ。

  嘆いているわたしの心でも、どんな身の上になったら適合するというのだろう。
  思い通りにはならないと知ってはいるけれども、
  悟りきってはしまえないことだ。

【語釈】
●身を思はずなりと……「思はずなり」は形容動詞。予想していたようにはならなかった、思うようにならなかった心外な身の上と。
●やうやうなのめに、ひたぶるのさまなる……次第にいつものことになってきて、さらに進んでひたすら激しく思い詰めた状態になる。「なのめに」を「なのめならず」と同義とする説もある。
・「なのめに」は日常化すること 『評釈』『集成』『叢書』『新書』『大系』 
・「なのめに」は程度の甚だしいこと 『人物』『論考』
●数ならぬ心……「思はずなり」と嘆く、所詮は人数でもない、至らない心。
●身をばまかせねど……「数ならぬ心」に我が身を任せる、いっぱいに占める。
●身にしたがふは……自分の身についてくるのは。
●心だに……「思はずなり」と嘆く心でも。
●いかなる身にかかなふらむ……どんな境遇になれば適合するというのだろうか。
●思ひ知れども……どんな境遇になったとしても、思い通りにはならないと、経験上知っているけれど。
●思ひ知られず……悟りきることはできない。諦めきれない。

【参考】
『千載集』雑中、1095
「数ならで 心に身をば まかせねど 身にしたがふは 心なりけり」
『続古今集』恋五、1373
「心だに いかなる身にか かなふらむ 思ひ知れども 思ひ知られず」