初雪降りたる夕暮れに、人の
123 恋ひわびて ありふる程の 初雪は 消えぬるかとぞ うたがはれける
返し
124 ふればかく うさのみまさる 世を知らで 荒れたる庭に 積る初雪
125 いづくとも 身をやる方の 知られねば うしと見つつも ながらふるかな
【通釈】
初雪が降っていた夕暮れに、ある人が詠んできた歌
あなたをどうしようもなく恋い慕って、時を経てしまったあとは、時間が経つと初雪も
溶けるように、消えてしまうのではないかと危ぶまれます。
返事
時を経れば、このように憂さばかりがまさる世の中とも知らないで、
荒廃した我が家の庭に、積もっていく初雪であることです。
どこへとも、身を処す場所が和からないので、この世をつらいものだとつくづく
感じてはいても、出家もせずにただ生き長らえていることです。
【語釈】
●人の……式部が宮仕えを辞めた後、女房仲間の一人が式部のことを心配して消息を尋ねてきたものか。相手を宣孝とする説もある。
・同僚の女房 『人物』『基礎』『集成』『叢書』 ・宣孝 『全評』
●恋ひわびて……あなたに恋し、悩んで。
●ありふる程……月日を過ごす間に。
●消えぬるかとぞうたがはれける……訳が分かれる。
・あなたが恋しいと思っている間に、雪が消えてしまうのではないかと疑う 『集成』
・雪と同じように、わたしも消え入りそうです 『大系』『評釈』『論考』『叢書』『国文』
・あなた(式部)が生きているのかと疑ってしまいます 『人物』
●ふればかく……「降れば」と「経れば」を懸ける。
●世……一般には男女の仲。ここでは世間、世の中と解する。
●荒れたる庭……荒廃した我が家。式部の心情を反映した言葉。
●身をやる方……わが身を持っていく場所。身を処する方法。
●見つつも……体得しながらも、身にしみて知りながらも。
【参考】
『新古今集』冬、661
「思ふこと侍りける頃、初雪降り侍りける日
ふればかく 憂さのみまさる 世を知らで 荒れたる庭に つもる初雪」
『千載集』雑中、1123
「(詞書なし)
いづくとも 身をやる方の 知られねば うしと見つつも 長らふるかな」