又いかなりしにか
120 なにばかり 心づくしに ながめねど 見しにくれぬる 秋の月影
【通釈】
また、どのような折のことだったか
これといって、心を傾けて眺めていたわけではないけれど、見ている間に
自分の涙で曇ってしまった、秋の月であることよ。
【語釈】
●又いかなりしにか……また、という言葉は前の歌と続かない。古本系では114番歌の後ろに配されており、もとはそのような順だったのが錯簡を生じたがかと思われる。詠歌時期は諸説ある。
・夜離れを嘆いて (114番歌と同時ではなく、前後に) 『論考』
・夜離れを嘆いて (114番歌の直後に) 『叢書』『大系』
・夜離れを嘆いて (特に記載なし) 『評釈』『集成』
●何ばかり心づくしに……それほど、特に思い詰めて。
「木の間よりもれくる月の影みれば心づくしの秋は来にけり(『古今集』)」を踏まえているか。
●見しにくれぬる……見ているうち、涙で曇ってしまった。「昏れぬる」に「暮れぬる」を懸ける。