里に出でて、大納言の君、文たまへるついでに
118 浮き寝せし 水の上のみ 恋しくて 鴨の上毛に さえぞおとらぬ
返し
119 うちはらふ 友なきころの 寝覚めには つがひしをしぞ 夜半に恋しき
【通釈】
宮中を出て里居しているとき、大納言の君が手紙をくださった折に
あなたと共に仮寝をしていた宮中ばかり恋しくて、あなたにお会いできない
独り寝の寂しさは、鴨の上毛にさえも劣らないほど冷たいものです。
返事
共に羽根をうち払い、慰め合う友がいない、そんな今の寝覚めには、
仲のよい鴛のように、いつも連れだっていたあなたが夜半に恋しくなることです。
【語釈】
●浮き寝せし……憂き寝を懸ける。水鳥の浮いたまま寝る様子を、宮中の落ち着かない仮寝になぞらえる。
●水の上……中宮の御前わたり。水に「見ず」を懸けている。
●鴨の上毛にさえぞ劣らぬ……鴨の上羽に置く霜の寒さにも劣らない。「さえ」の品詞は解釈が分かれる。
・「さえ」は副助詞「さへ」に「冴ゆ(冷え込む)」の名詞形「冴え」を懸ける。 『評釈』『大系』『集成』
・「さえまさる」の反対語「さえおとる」を係り結びで強めたもの 『論考』『国文』
●うちはらふ……鴛鴦は、互いに上毛の霜を払い合うと言われる。そのように、互いの悩みを打ち明け、慰め合う。
●つがひしをし……いつも一緒だったあなた。
【参考】
『新勅撰集』雑一、1107
「ふゆころ、さとにいでて、大納言三位につかはしける
うきねせし 水のうへのみ こひしくて かものうはげに さえぞおとらぬ」
『新勅撰集』雑一、1108
「(詞書なし)
うちはらふ 友なきころの 寝覚めには つがひしをしぞ 夜半に恋しき」