『類聚倭名抄』・『延喜式』・『本草和名』・『新撰字鏡』などに記載のある野菜類について、分類しています。
『類聚倭名抄』の巻第十七、果蓏(から)部の蓏類(マクワウリ・キュウリ・ナスなど)。
斑瓜(またらうり) |
マクワウリの一種。黄色い斑点がある。 |
青瓜(あをうり) |
青い皮の瓜。 |
白瓜・越瓜(しろうり) |
干瓜とあるのは、この白瓜を干したものらしい。酒粕に漬ける工夫もされて奈良漬のもとがあったらしい。 |
黄瓜・胡瓜・稜瓜(きうり・そはうり) |
ウリ科の一年生果菜。キュウリのこと。飛鳥・奈良期に中国から渡来。果実は細長く緑色。若い果実を生食。 |
熟瓜(ほそぢ・ほぞち) |
よく熟したマクワウリのこと。アジウリ・アマウリなどとも言った。果実は果皮が緑・黄色・白色などになり、食用。未熟な果実を干して薬用とする。 |
冬瓜・氈瓜(かもうり) |
ウリ科の一年生果菜。果実は非常に大きく、球形または円形で食用。夏野菜だが、果実を涼しい場所に置いておくと翌春まで貯蔵可能なため、この名が付いたという。種子を乾かした冬瓜子は生薬。 |
茄子(なすひ) |
ナス科の植物。インド原産で、8世紀ごろ中国より渡来。『大鏡』には、昔はよく河原の茄子や瓜が盗まれたものだが、道長の世の中になって、そんなこともなくなったと、道長の時代を賛美するくだりがある。 |
菌茸(たけ) |
キノコ類の総称。生える場所によって、木菌、土菌、石菌などと区別された。『今昔物語』には、舞茸を食べた尼たちが突然踊り出した話が載っている。 |
箏・筍(たかんな・たこうな) |
イネ科(タケ亜科)の植物。食用にするのはマダケ・モウソウチクなど。『源氏物語』の「横笛」の巻で、女三宮のもとへ朱雀院からタケノコが贈られてくるくだりがある。 |
長間箏(しのめ) |
遅く生えて色が青く、苦いタケノコ。 |
人参(にんじん) |
ウコギ科の多年草。薬種としてのチョウセンニンジン。平安時代はまだ食用は渡来していない。 |
『類聚倭名抄』の巻第十七、果蓏部の芋類(ヤマイモ・クワイなど)。
薢・野老(ところ) |
ヤマノイモ科の多年生蔓草。果実は上向きにつき、根茎は苦みを抜けば食用となる。『今昔物語』に平中の恋心を冷めさせようと、筆箱の中に甘葛をかけた野老を入れ、排泄物に見せかける本院侍従の話がある。 |
芋(いへついも) |
サトイモ科の代表植物。サトイモのこと。畑で栽培するという意味で、山芋に対比してこの名がある。 |
薯蕷・山芋(やまついも・やまのいも) |
ヤマイモのこと。『今昔物語』に藤原利仁という人物が五位の大夫に芋粥を食べさせる話が載る。 |
零余子(ぬかご) |
ムカゴのこと。ヤマノイモ類の茎の葉腋に生じる小さい塊茎のこと。 |
沢写(なまゐ) |
オモダカ科の多年草。オモダカのこと。 |
烏芋・慈姑(くわゐ) |
オモダカ科の水生多年草。水田の中に栽培し、地下の塊茎を食用にする。原産は中国、日本へは奈良時代から平安初期に渡来。 |
『類聚倭名抄』の巻第十七、菜蔬部の葷菜類(ネギ・ニンニク・ラッキョウなど)。
蒜(ひる) |
ネギやニンニクなど、蒜類の総称。 |
大蒜(おほひる・にんにく) |
ニンニクのこと。『源氏物語』「帚木」に、風邪でニンニクを服用したため、会いに来た男に近づかないよう注意をする女が話題になる。 |
小蒜(こひる・めひる) |
ユリ科の多年草。ノビルのこと。小さい鱗茎を食用とする。 |
沢蒜(ねひる) |
ラッキョウ・ノビルとする説がある。ネギ科の多年草。 |
獨子蒜(ひとつひる) |
今日の何に当たるか不明。 |
島蒜(あさつき) |
ユリ科の多年生草本。早春にネギに似た細い葉を出す。 |
葱(き) |
ネギのこと。 |
冬葱(ふゆき) |
ネギのこと。 |
薤(おほみら) |
ラッキョウとする説がある。ネギ科の多年草。 |
韮(こみら) |
ユリ科ネギ属の多年草。ニラのこと。 |
『類聚倭名抄』の巻第十六、飲食部の薑蒜類(ショウガ・サンショウ・ワサビなど)。
薑(はしかみ) |
ショウガ科の多年草。熱帯インド原産。根茎を香辛料とする。 |
蜀椒(なるはしかみ・ふさはしかみ) |
ミカン科の落葉低木。サンショウのこと。ナルハジカミは結実するハジカミのこと、フサハジカミはサンショウの実が房状になるとことからきている。 |
蓼(たて) |
タデ科の一年草。平安時代には晩春から秋まで、干したものや葅(にらぎ・楡の皮の粉末を用いた漬物)が食用とされた。種子は薬用となる。 |
胡荽(こにし) |
セリ科の一年草。コリアンダー(香菜)のこと。種実を香辛料として利用する。 |
野蒜・蘭(あららき) |
ノビルの古名。『倭名類聚抄』では藤袴のこととしているが、『延喜式』では年間を通じて漬物に利用していることから、ノビルのこととみられる。 |
辛夷(やまあららき・こふしはじかみ) |
モクレン科の落葉高木。コブシのこと。樹皮・枝葉からコブシ油をとる。 |
芥(からし) |
アブラナ科の植物、カラシナの種子を粉にしたもの。 |
薄荷(はっか) |
ノースミントのこと。シソ科ハッカ属の多年草。料理に利用する。 |
山葵(わさひ) |
アブラナ科の多年生水生植物。平安時代初期から香辛料として珍重された。 |
『類聚倭名抄』の巻第十七、菜蔬部の園菜類(カブ・ダイコン・ショウガなど)。
蔓青(あをな) |
ハタケナまたは葉カブのこと。正月の若菜の行事に用いられた。 |
蔓青根(かふら) |
カブの根の方を指す。 |
辛芥(たかな) |
アブラナ科の一、二年生葉菜。種子を粉末にし芥子を採る。葉は塩漬にする。 |
温菘(こほね) |
ハマダイコン・ノダイコンのこと。カイワレダイコンとして利用。 |
葍・大根(おほね) |
ダイコンのこと。 |
蘘荷・売莪(めが) |
ショウガ科の多年草。夏に根元から広楕円形の芳香を有する花穂を出す。若い茎および花穂を食用とする。 |
蒟蒻(こにゃく) |
インドシナ原産、テンナンショウ科の多年草。奈良期に中国・朝鮮より渡来。地下の塊茎がコンニャク芋で、これを薄く削って乾燥し粉砕して、炭酸ナトリウムまたは石灰水を混ぜて煮沸、流し固めると蒟蒻になる。 |
薊(あざみ) |
キク科アザミ属の総称。種類によって利用部位は異なるが、主に茎葉や根を食用にする。正月の若菜の行事に用いられた。 |
蕗(ふき) |
キク科フキ属の宿根草。主に葉柄を食用とするが、早春に前年の葉の中心にできる薹や若葉も食べる。催馬楽「逢路」に篠の小蕗というのが登場する。 |
萵苣(ちさ) |
地中海原産で、日本へは中国より渡来。結球しない掻萵苣と呼ばれるものが栽培されていた。 |
葵(あふひ) |
アオイ科の一年草。フユアオイのこと。葉の縮む種類をオカノリといい、これが食用とされたと言われる。正月の若菜の行事に用いられた。 |
『類聚倭名抄』の巻第十七、菜蔬部の野菜類(ゴボウ・ワラビ・ナズナなど)。『類聚倭名抄』では「野菜」とは現在の山菜のことで、野菜を表すには「菜蔬」が用いられています。
大薊(やまあざみ) |
オニアザミなど、野生のアザミの総称。アザミは種類により茎・葉・根と食用にする部分が異なるが、平安時代は若い葉を利用したらしい。 |
竜葵(こなすひ) |
サクラソウ科の多年生草木、コナスビのことではないかと言われている。小さな実が小茄子に似ているところから、この名が付いたと言われる。春に葉を、秋に茎葉と実を漬物にしていた。 |
莧(ひゆ) |
ヒユのこと。夏期、5月から8月にかけて食用とする。 |
馬莧・馬歯莧(うまひゆ) |
スベリヒユ科の一年草。スベリヒユのこと。茎が地面を這い、よく分枝する。全草が多肉質。茹でてお浸しや和え物にする。乾燥して貯蔵もできる。 |
菫菜(すみれ) |
スミレ科の多年生草本。スミレ属の総称。 |
薇蕨(わらひ) |
ワラビ科の植物。ワラビのこと。春、地上に出る拳状の若い葉を食用とする。 |
午蒡・馬蕗(きたきす・うまふふき) |
中国より渡来。栽培が始まったのは平安時代末期で、それまでは野生のものを食用としていたらしい。 |
薺(なつな) |
アブラナ科の越冬一年生植物。正月の若菜の行事に用いられた。 |
薺蒿(おはき) |
キク科の多年生草木。ヨメナのこと。葉は美味で、春に野生のものを採って塩漬けにした。 |
羊蹄菜(しふくさ) |
ギシギシ、またはドクダミという説がある。 |
藜(あかさ) |
アカザ科の一年草。表面下部に赤い粉粒のついた若葉が食用となるが、蓚酸含有量が多く、食味はよくない。 |
荼(おほつち・おほとち・にかな) |
ノゲシのことだと言われるが、明確ではない。『倭名類聚抄』には苦い菜だとあるので、ニガナのこととも考えられている。 |
蘩蔞(はくへら・はこへら) |
ハコベのこと。 |
苜蓿(おほひ) |
マメ科の多年草。ウマゴヤシのこと。茎葉を利用したらしい。種実は薬用になったようである。 |
芸薹(おち) |
アブラナのこと。 |
莵葵(いへにれ) |
キンポウゲ科の多年草。セツブンソウのこと。 |
『類聚倭名抄』の巻第十七、菜蔬部の水菜類(セリ・ジュンサイなど)。
芹(せり) |
セリ科の水生多年草。正月の若菜の行事に用いられた。 |
蓴(ぬなは) |
スイレン科の水生多年草。ジュンサイのこと。平安時代は根や地下茎を漬物にしていたらしい。 |
水葱・菜葱(なぎ) |
ミズアオイ科の一年草。ミズアオイの古名。溜水中に生え、全体に軟質。葉を羮などの食用とした。 |
荇(あさざ) |
リンドウ科に属する多年草。葉の質は厚く、食用とした。夏に黄色い花を開いて結実し、細かい種子ができる。 |
芡(みつふふき・みずふふき) |
スイレン科の一年生水草。オニバスのこと。果肉には多肉質で覆われた種皮があり、種子中の胚乳を粉にして煮たもの、または葉柄・地下茎を食用とするが、平安時代は内膳司が秋にオニバスの漬物を供していたらしく、葉を使っていたのではないかと思われる。 |
骨蓬・河骨(かはほね) |
スイレン科の水生多年草。コウホネのこと。根茎と若い芽を食用とした。 |
水苔(かはな) |
淡水産の藻類の古称。現在のカワノリの類。 |
紫苔(すむのり) |
淡水産の藻類の古称。現在のカワノリの類。 |
江浦草(つくも・たまくも) |
カヤツリグサ科の多年草。フトイのこと。 |
蕺(しぶき) |
ドクダミのこと。原野に野生し、食用にもする薬草。『蜻蛉日記』に石山寺へ詣でた作者が蕺にユズを添えて食べたという記事がある。 |
『類聚倭名抄』の巻第十七、果蓏部の野菜の加工食品名、または各文献の野菜に関する調理法。
蒸(むしもの) |
甑などの蒸器を使い、蒸気で蒸す調理法。野菜のほか、魚介類や麺類にも使われた方法。材料を味付けしてから蒸す場合と、先に蒸してから調味する場合がある。 |
茹(ゆでもの) |
材料を熱湯に通して茹でたもの。「したしもの」とも言い、おひたし、和え物のこと。アオナ・チサ・ナギ・ワラビ・ネギなどに使われた方法。 |
葅(にらき) |
楡の皮の粉末を用いた、酸味のある漬物。ハルニレやアキニレの樹皮を天日干しし、臼で搗いて粉末にし、これに塩を加えて漬け床を作る。使う野菜は、カブ・タデ・アオイ・コナスビ・タカナ・アララギなど。 |
羹(あつもの) |
熱い汁物・吸い物のこと。今のみそ汁のようなもの。『源氏物語』や『宇津保物語』では若菜の羮・キノコの羮が登場する。 |
須々保利(すすほり) |
米や大豆を加えた漬物。フキ・アオナ・カブなどが使われた。 |
塩漬 |
塩を用いた漬物。塩分は10%程度だったらしい。ウリ・カブ・ナス・ヤマアララギ・ワラビ・ヨメナ・セリ・アザミ・ニンニクなど、使用する野菜は多数。 |
醤漬 |
醤や滓醤を加えた漬物。カブ・ナス・ウリなどを漬けた。 |
未醤漬 |
未醤を用いた漬物。 |
酢漬 |
酢を用いた漬物。 |
糟漬 |
酒糟を漬床に用いた漬物。ウリ・ナス・コナギ・マメ類などを漬けた。 |
甘漬 |
麹または酒糟で漬けた漬物。ウリ類などを漬けた。 |
『類聚倭名抄』の巻第二十、草類・蓮類・葛類・竹類・木類に含まれる食用になる植物(タンポポ・ヨモギ・ユリ・クコなど)。
葛(くずかづら) |
マメ科の多年生つる草。肥大した根にはでんぷん質が多く、薬用に用いられたり、葛粉になる。若葉は食用となる。 |
蓮(はちす) |
蓮の地下茎。 |
蓬(よもぎ) |
正月の若菜の行事に用いられた。 |
獨活(うと・つちたら) |
ウコギ科の多年草。ウドのこと。柔らかく芳香のある若芽を食用とする。 |
虎杖(いたとり) |
タデ科の多年生草本。野生の若い茎を生食・煮食・漬物にして利用した。 |
百合(ゆり) |
ユリ科のオニユリやヤマユリなどの総称。芋のような柔らかさと粘りを持った鱗茎は食用となる。 |
枸杞(くこ) |
ナス科の落葉高木。秋から冬にかけて美しい赤い実を付ける。この実を粉末にして酒に混ぜ、服用すると強壮や疲労回復などの効果があるという。根皮や葉も薬用となり、解熱や血圧安定に効くらしい。 |
五加(むこき) |
ウコギ科の落葉低木。ウコギのこと。若い葉は食用。根皮は乾かして強壮薬とする。 |
欵冬(やまふふき) |
キク科の常緑多年草。ツワブキのこと。葉柄を食用とする。葉は腫れ物や湿疹に効くとされる。 |
地膚(にはくさ・マキクサ) |
アカザ科の一年草。ハハキギ・ホウキギのこと。果実を強壮・利尿薬に使う。 |
防風(はまにかな) |
ハマボウフウ。セリ科の多年草。風を防ぐので防風とと呼ばれる。和名はハマダイコン。 |
『類聚倭名抄』に含まれる豆類(ダイズ・アズキ・ゴマなど)。
大豆(まめ) |
マメ科の一年生草本。 |
烏豆(くろまめ) |
黒豆のこと。 |
大角豆(ささげ) |
マメ科の一年生草本。インゲン豆に似ていて、品種は多い。現代は若いさやを食用とするが、平安時代は種実を小豆と同じように使っていたらしい。 |
白角豆(しろささげ) |
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小豆(あかあずき) |
マメ科の一年生草本。 |
野豆(のらまめ) |
マメ科の植物。奈良時代に渡来。エンドウのこと。乾燥した種子だけを利用したのか、若いさやも利用したのか、明らかでない。 |
藊豆(あちまめ) |
マメ科の一年生蔓草。フジマメのこと。奈良時代に渡来。紫の花が咲く方は鵲豆と書く。乾燥した種子だけを利用したのか、若いさやも利用したのか、明らかでない。 |
胡麻(ごま) |
ゴマ科の植物。 |
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