果物・菓子類

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 古代から近世までの菓子類の一覧です。
 このうち、平安時代の菓子の代表は何と言っても「唐菓子(からがし・からくだもの)」。平安時代の終焉と共に製法・形状などがわからなくなってしまったものも少なくありませんが、残っている文献から想像してみました。
 それにしても、こうして見ると平安時代の菓子は味の方は今ひとつだったのではないでしょうか。現代のわたしたちがおいしいと思う菓子(洋菓子はもちろん、小豆餡を使った和菓子・羊羹など)は一切と言っていいほど存在しないのです。自然菓子が一番おいしかったかもしれません。

自然菓子 木の実       
草の実        
中間菓子 唐菓子 八種唐菓子    
その他の唐菓子     
人工菓子 餅菓子 無餡単純餅 純粋糯米餅
草木等夾雑餅
(団子・求肥など)
外餡内餅 掻餅
(汁粉など)
(内餡外餅) (大福・最中など)
干菓子 粔籹    
煎餅    
青差    
(落雁)    
(雑菓子) (駄菓子)    
(南蛮菓子) (カステラ・金平糖など)    
(蒸菓子) (饅頭)    
(煉菓子) (蒸羊羹・煉羊羹・点心など)    

註:平安時代に存在しなかったと思われるお菓子はカッコ入りにしています。


木の実:菓子は昔、「くだもの」と呼ばれ、木の実を意味していました。菓子は果子であり、果物がすなわち菓子であったからです。後に人工の菓子が現れて、菓子と果物が区別されるようになりました。
石榴(ざくろ) ザクロ科の落葉小高木。平安時代に渡来。秋に熟す黄赤色の実は生食できる。厚い果皮は熟すと不規則に割れる。八重咲きの品種は結実しない。
梨子(なし) バラ科の落葉喬木、古代から自生していたが、中国産のものにとってかわられた。
檎子(やまなし) 落葉高木。現在のイヌナシ。梨に似た黄色または赤色の実がなるが、小さく渋い。
唐梨(からなし) バラ科の落葉高木。花梨のこと。果実は黄色で芳香は強いが全体が木化するため生食はできない。
柑子(かむし・こうじ) 現在の柑子蜜柑。古くは蜜柑を指した。果実は蜜柑より小さく、果皮が薄く果肉は淡黄色。酸味が少なく味は淡泊。
獮猴桃(しらくち) マタタビ科の落葉蔓性低木。現在のサルナシ(シラクチヅル)のこと。5〜6月ごろ、緑白色の五弁花を付け、花後、炭緑黄色で楕円形の液果を結ぶ。甘酸っぱく果実酒などに利用される。『宇治拾遺物語』には、源邦正のことを罵った兼通が償いにと、客に”こくは(こくはしらくちの略でしらくちに同じ)”をふるまう場面がある。
榛子(はしばみ) カバノキ科の落葉喬木。果実は葉のような総苞によって下部を包まれている。
栗子(くり) ブナ科の落葉高木。果実は堅果でいがに覆われ、熟すると裂開して果実を散出する。
小栗(ささくり) 栗の一品種。シバグリなど実の粒の小さいもの。野生の堅果は甘みが強く非常に濃厚な味がする。
椎子(しひ) ブナ科の常緑高木。実はスダジイは生食できるが、マテバシイは炒って食べたほうがおいしい。ツブラジイは美味。
櫟子(いちひ) ブナ科の常緑高木。現在のイチイガシ。実は大型で食用となり、味はシイに似る。
榧子(かや・かえ) イチイ科の常緑高木。実は棗に似て、広楕円形の核果状で白い核は食用となる。正月の盛物などに用いられる。
松子(まつのみ) マツ科の常緑高木。チョウセンゴヨウマツの種子を指す。球果は大きく、緑褐色に熟す。『よしなしごと(堤中納言物語)』の中に、翔け鷹が峰の松の実がほしいという言葉が出る。
胡頽子(もろない・ぐみ) グミ科の落葉または常緑低木の総称。アキグミは10月ごろ赤く熟し、生食できるが渋いので果実酒などにする。ナツグミは6月ごろ熟し、少し渋いが食用となる。ほかにツルグミ・マルバグミなど種類が多い。
鸚実(うくひすのきのみ) ウグイスカグラを指すか。スイカズラ科の落葉低木。初夏にグミに似た液果が赤熟し、甘い。
杏子・唐桃(からもも) バラ科の落葉小高木。アンズの古名。中国から古くに渡来。実は黄色に熟し、表面には細かな毛が生える。生食できる。
林檎(りうこう・りんご) バラ科の落葉喬木。ワリンゴのこと。中央アジア原産で中国から日本へ奈良期に伝来。普通の林檎より小形の実を結ぶ。
楊梅(やまもも) ヤマモモ科の常緑喬木。実は丸く、熟すると赤紫色になる。味は甘く生食または塩漬けにする。
桃子(もも) バラ科の落葉喬木。もとは日本在来種の桃(今日の楊梅)を指したが、中国から毛桃が入って後、平安時代にはこちらが一般的になって桃と呼ばれるようになったらしい。
李子(すもも) バラ科の落葉小高木。中国から古くに渡来。実は無毛で、夏に赤く熟す。果肉は赤色や黄色で酸味があるが、完熟すると甘い。
麦李(さもも) 早桃とすればすももの一品種。果実が早熟する。
椿桃・李桃(つはきもも・つばいもも) 桃の一品種。果実は桃よりやや小さく、無毛で紅熟すると光沢を有する。
棗(なつめ) クロウメモドキ科の落葉喬木。日本への渡来は6世紀以前。実は2〜3cmの楕円形で、熟すと暗紅色になる。ビタミン豊富で生食できるが、乾燥させて干棗にして食用・薬用とする。
橘(たちばな) 食用柑橘類の総称、またはカラタチバナの別称。カラタチバナはカラタチのことで、ミカン科の落葉低木。秋に短毛に覆われた実が黄熟し芳香を有するが、食用とはならない。未熟の実を干して薬用とする。
胡桃(くるみ) クルミ科の落葉高木。果実はきわめて堅く、種子は食用・薬用・油を絞る。『今昔物語』に実因僧都が8個の胡桃を足の指に挟んで一度に割る話が載っている。
酸棗(さねぶと) サネブトナツメのこと。大型の核果は酸味が強く食用にならない。種子を乾かし健胃滋養剤とする。
阿倍橙(あべたちばな) マツカゼソウ科の常緑小高木。クネンボのこと。
柚(ゆ) ミカン科の落葉小高木。平安時代初期には渡来していたらしい。結実まで年数がかかる。でこぼこした果実は香がよい。
柚柑(ゆかん) ミカン科の常緑樹。ユコウのこと。ユズの雑種。果実は大きく香気が高い。
梅(うめ) バラ科の落葉喬木または高木。日本へは奈良時代ごろに渡来。2〜3月に咲く花は平安貴族に特に愛された。5〜6月に実が熟す。種子の仁は薬用になる。
柿(かき) カキ科の落葉喬木。日本でも自生、干柿を宮中行事に利用、内膳職の果樹園には柿の木が栽培されていた。甘柿は鎌倉時代ごろから栽培。
鹿心柿(やまかき) カキノキ科の落葉小高木。マメガキ(シナノガキ)の別称。普通の柿に似ているが、実生は小さい。主に未熟のものから渋を採る。
杼(とち) トチノキ科の落葉高木。9〜11月に実が熟す。種子はでんぷんを大量に含み、あくを抜いたあととち餅を作るのに使われる。
枇杷(みは) バラ科の常緑高木。初夏に黄色の果実を結び、食用。葉は薬用となる。
椋子(むく) ニレ科の落葉高木。秋、球形の実が熟すと紫黒色となり、甘みがあっておいしい。

草の実:もともと食用になる木本果実だけが「果・菓(くだもの)」と呼ばれていましたが、食用になる草本果実も合わせてくだものとなりました。区別する場合は「蓏(くさくだもの)」と呼び、蔓性の木本植物もこちらに分類したようです。 

粳葡萄(えびかづらのみ) ブドウ科の蔓性落葉低木。ヤマブドウの古名。夏、花後にブドウに似た黒い液果をつけ、食用となる。
栝楼(からすうり) ウリ科の多年生蔓草。晩秋、大きな赤色の実が熟す。種子は食用。
薁・郁子(むべ・うべ) アケビ科の常緑つる性木本。トキワアケビのこと。山野に自生する。実は楕円形で熟すると暗紫色になり、甘い。『よしなしごと(堤中納言物語)』の中に、道の奥の島の”うべあけび”がほしいとあるのは、このトキワアケビ。
蔔子(あけひ) アケビ科の落緑つる性木本。山野に自生する。実は瓜状、熟すると紫色になり自然に縦に開く。肉は白くて甘い。
覆盆子(いちご) バラ科の小低木または多年草。
菱子(ひし) ヒシ科の浮生植物。水草で実は三角形。熟すると棘のある黒い核果を付け、中は白く食用になる。

八種唐菓子:平安時代の唐菓子の品名については、以下の文献に「八種唐菓子(やくさのからがし)」として記載されています。文献によって多少の違いはありますが、いずれも粉菓子であることは確かなようです。 

倭名類聚抄
(口遊二中歴)
拾芥抄
(厨事類記)
解説
梅枝(ばいし) 梅枝(ばいし) 枝に付いたままの梅の実、または米の粉をゆでてこねたものを梅の枝が分枝した姿に象って、菓子としたもの。
桃枝(とうし) 桃子(とうし) 枝に付いたままの桃の実?
餲餬(かっこ) 餲餬(あいこ) 蝎虫(木食い虫・紙切虫の幼虫)に形を似せて円柱形に作った菓子。麺粉で製し、油で揚げる。節会や大饗で用いた。
桂心(けいしん) 桂心(けいしん) 餅菓子の一種。肉桂を使っており、三山冠の形(しめじのような?)をしている。
黏臍(てんせい) 枯臍(こさい) 黏(もち)で作った餅。平たい丸を作り、中央をくぼませた形が臍に似ているのでこの名がある。油で揚げる。節会のときなどに用いた。
饆饠(ひちら) 饆饠(ひら) 小麦粉あるいは糯米粉で作った扁平な餅で、中に餡を入れて揚げたもの。節会などで御膳に供される。
鎚子(ついし) 鎚子(ついし) 米の粉を弾丸のように細長く、先を尖らせて固めて蒸したもの。
団喜(だんき) 団子(たんす) 歓喜団の略。歓喜天(聖天)に供えるため、うるしね・緑豆・蒸餅・白芥子・酥蜜(そみつ)・石蜜などを混ぜて、丸めて作る団子。餡はおそらく入っていない。

その他の唐菓子:「八種唐菓子(やくさのからがし)」以外にも、文献には様々な唐菓子の名前が見られます。 

糫餅・環餅・勾餅(まがりもち) 米や麦の粉を飴などに混ぜて細長くし、輪または藤や蔦が巻き付いているように曲げて、油(胡麻油)で揚げたもの。『土佐日記』には「まがりのほらのかたも(環餅の法螺の形も)」と書かれた本文があり、これを正しいと見ると京から淀川沿いに下った山崎の地の店屋にも、法螺貝のような形をした環餅が売られていたことになる。ただし、別の本文では「まがりのおほぢのかたも(曲りの大路のかたも)」となっており、「まがり」を地名と見る説もある。
餢飳・伏兎(ふと) 油で揚げた、長さ八寸×幅二寸六分、厚さ一寸の長方形の餅。ただし春日神社などに残るものは、全く違う形状。
結果(かくなわ・かくのあわ) 細長い紐状に練った粉(小麦?)を、緒を結ぶように幾重にも結んで油で揚げたもの。和歌には「結ぼほる(気が塞ぐ)、乱る」などという気持ちを例えるのに使われる。
餛飩(こんとん) 米・小麦の粉を練り、中に細かく刻んだ肉や野菜などの餡を入れて、弾丸のように拵えて蒸したもの。後世は茹でて汁をかけたらしい。
粉熟(ふんじゅく・ふずく) 米・麦・大豆・小豆・胡麻の五種を五色にかたどって、粉にして蜜煎で練って、竹の筒に入れて押し出したもの。切って食べる。
索餅・蝎餅・金餅・麦縄(さくへい・さいべい・さうめい・むぎなわ) 小麦・米・塩・醤・酢・糖・小豆・生姜・胡桃などを練り、縄のように細く捻った菓子。宮中で陰暦七月七日に瘧除のまじないとして内裏の内膳司から宮中に献上した。京の東西の市でも売られていた。米粉で作ったものは特に手束(たつか)索餅という。現在の素麺や冷麦を太くしたようなものらしい。『今昔物語』には、麦縄が変じて蛇になった説話が載っている。
餺飥・(ほうとう・はくたく) 薯蕷(山芋)をすり下ろし、米や小麦の粉を混ぜてよく練り、めん棒で平たくし、幅を細く、長さ二寸ほどに切って小豆の汁に浸して食べる。
捻頭(むぎかた) 小麦粉を型に入れ、油で煎り、固めてその頭を捻ったもの。大嘗祭で大膳職が供物として神前に献上した。
餅餤(へいたん) 餅の中に、煮合わせた鵞や鴨の肉、野菜などをくるみ込んで四角に切ったもの。二月の列見や八月の定考の際に供された。『枕草子』に藤原行成が清少納言に餅餤を贈った話が載っている。
椿餅(つばいもち) →餅菓子
粔籹(こめ・おこしめ) →干菓子
煎餅(いりもち) →干菓子

干菓子:乾燥して水分を含まない菓子のことで、寒具とも書きます。 

粔籹(こめ・おこしめ) 米・粟・麦などを蒸して作った興し種を煎り、砂糖や蜜を混ぜ合わせながら固めて作る。字義は「起こさしむる米」のことらしい。大膳職から神前に供えるのに用いた。
煎餅(いりもち) 小麦粉を練り型に入れて固め、胡麻油で揚げたもの。後世は糯米・粳米も用いられて煎餅(せんべい)となった。
青差・青刺・初熟麦(あおざし) 麦の未熟な部分を煎って皮を去り、そのまま臼で挽いて糸のように縒った菓子。

餅:平安時代、餅は「もちひ」と訓まれていました。糯(もち)で作った飯(いひ)だから「もちいひ」、つまって「もちひ」となったのだと言われています。
無餡のものと有餡のものがありますが、平安時代の餅はほとんど無餡でした。

無餡単純餅 純粋糯米餅 餅鏡(もちひかがみ) 現在と同じく丸餅を二つ重ねて飾り、眺めたもの。
戴餅(いただきもちひ) 子どもが生まれた初正月から二、三年の正月、小餅を子どもの頭に載せて三度触れさせ、前途を祝福する儀式。宮中や貴族の家で行われた。
三日餅(みかのもち)・三日夜餅(みかよのもち) 結婚第三夜めに出される餅。婿は三枚食べることとなっていたが、女は不明。色は白一色とも紅白とも、また四色とも言われる。
五十日の餅(いかのもちひ) 餅を切って擂り粉木でつぶし、だし汁を加えた重湯状の餅。松の餅(まつのもち)ともいい、生後五十日目を祝う五十日祝の儀式に、小児の口に含ませる。
亥子餅(いのこもち) 十月上旬の亥の日の亥の刻に万病を防ぐために搗いて食べる餅。大豆・小豆・ささげ・胡麻・栗・柿・糖類の七種の粉を混ぜて作るという。
椿餅(つばいもちひ) 干飯を砕いて粉にし甘葛煎をかけた餅を丸め、二枚の椿の葉に包んで帯状の紙で結んだもの。蹴鞠の席などに出された。
粽(ちまき) 糯米を水に浸したものと粳米粉とを捏ねて、茅の葉で巻いて煮たもの。菰・竹・芦・菖蒲の葉を用いることもあった。五月五日の端午の節句に食された。五色の糸で巻き、あるいは撫子などの季節の花で飾った飾粽というのもある。
草木等夾雑餅 母子餅(ははこもち) 米の粉に母子草の葉を混ぜ、蒸して作った餅。三月上巳の節句に供えた。
松実餅(まつのみもち) 松の実を混ぜて搗いた餅。
大豆餅(まめもちひ) マメ餅のこと。
小豆餅(あかあずきもち) 小豆を入れて搗いた餅。
葛野餅(かどののもちひ)  
雑煤餅  
薄餅  
餺餅  
折餅  
浮餾餅(ふるもちひ)  
匂餅  
黒餅 大学寮の釈奠の儀式・陰陽寮で用いられた。
白餅 大学寮の釈奠の儀式で用いられた。
雑餅  
赤餅 陰陽寮で用いられた。
胡麻狛餅  
外餡内餅   掻餅(かいもちひ) 牡丹餅の類。『宇治拾遺物語』に「かいもちひ」が登場するが、一説には蕎麦掻とも言われる。これが牡丹餅か蕎麦掻か、牡丹餅としても外餡に何が使われていたのか、本文からでは特定できない。