兼好法師は持つべき友人知己に薬師(くすし)、つまりお医者さんを挙げている。現代では医薬分業が進められているので+薬剤師が良いのかも知れないけれど。とは言え、良いお医者さんに出会う事は人生の幸運に違いない。実はかかりつけのお医者さんも音楽好きなので、何かと便宜をはかってくれる(別に安くしてくれる訳では無い。音楽の事を只で訊かれるから"損"してるかも)。しかし、この病院日記の中でこうした文章を書こうと思うのは、その幸運に再び当たったと思うからだ。

昨年(2004年)、11月の演奏会を控えたある日、1通のメールが届いた。差出人が女名前だったので、最近多い出逢い系のメールかと思ったが、開けてみるとビックリ。私の手術をして下さったT医師からのものであった。もう3年も前の事だし、どうしたのかと思ったら奥様がフルートをされていて、私の事も名前だけは御存じだったそうだ。その上奥様もお医者さんで、私の手術にも手伝いでおられたとの事。それで、私のHPをご覧の上メールを下さったとの事。アドレスの女名は奥様のアカウントを使っておられるからだった。

そのメールに曰く御自身は音楽に疎いが奥様がフルートを吹かれている事、私のHPを見て患者が入院中にどんな事を思っているのかを知る参考になった事、詳しい病名と手術の内容など丁寧に綴られていた。吃驚したのは、随分前の事なのに私のその後を気遣っておられた事だ。一度その後を見せて欲しいと結んであった。確かにもう一度来る様に言われたが、特に問題無く日常を送れれば面倒が先に立ち3年経ってしまった訳だ。本来ならこちらから言い出すべき事なのにと、恐縮した。

とは言え私も丁度11月の演奏会の事で忙しく、すぐに(T医師が非常勤で診察日が限られていたので)行く事は出来ないが、演奏会後に必ず伺う事、宜しければ演奏会にお出で戴きたいと返信した。そして、演奏会においで願える旨のメールが戻って来た。

そして当日、綺麗な胡蝶蘭を携えて御来駕下さった。そして早速、感想のメールも戴き大変に楽しかったと述べて下さった。その後、病院を訪ね最終的に完治のお墨付きを得た。私の病状や経過に付いても懇切丁寧な解説をされ、手術後の自分の状態が良く理解出来た。実際、その後の経過は極めて良好なのだ。最近の新聞に私の患った耳下腺腫瘍の記事が載っており、さらにその感を深めた。

この一連の出来事を通じて、私は良き医師に巡り合えて幸運だったと思うばかりである。いろいろな人がいるので医師も大変だと思うけれど、患者にとっては1対1であり頼るのはその人だけになる。そうした患者の気持ちを汲みつつ気持ちのこもった医療を続けられる人は少ないと思う。世間でいろいろな医療事故を聞く度に、わが身の幸せを感じるのだ。

しかし伺えば、最近は奥様が音楽活動に忙しく、ゆっくり話が出来ないとか。まあ、音楽は"時間の芸術"なので、空いた時間だけで済ます訳にはいかない。家庭にある程度の犠牲を強いるのは致し方ない、と言うのは音楽家の立場だけれど。御本人もギターを嗜まれる(奥様に最近プレゼントされたとか)そうなので、これを機縁にフルートとギターの二重奏が出来るほどに練習するのも一興かも。機会があれば「管楽合奏は楽しい会?」に御出演願いたいとも思う。

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