アンブシャー(embouchure 仏語)を考える

リードを支え、発音させる為の口の筋肉の状態の事ですが、見えない場所なので分かり難いものです。見た目に完璧でも、いい音がしなければ駄目だし、見た目は変でも、結果が良ければそれは良いアンブシャーだからです。身体全体で作るもので、口の形だけでは無いのです。

私には「口に力が入らない状態が良いのだ」と言われ過ぎている気がします。全く筋肉の力が要らないなら、糸の所をくわえて自由振動させれば良いのですが、それでは音になりません。ある程度の力は当然必要です。大事なのは「何が何でも力をかけないと言うので無く音をコントロールするに必要な力以外は、出来るだけかけない」と言う事です。

しかし、これでも「何グラム、あるいは何キログラムかければ良いか?」に対する答にはなりません。演奏中の現象面からその結果を引きずり出すしかありません。

良いアンブシャー?

結果として「良い音」が出て演奏上の問題「音程」「運動性(音の動き、タンギングなど)」が解決されていれば良いアンブシャーと言えます。傍から見てどうでも筋肉の付き方は人によって違うので、「見た目」で判断してはいけません。フリッツ・ヘンカー先生のアンブシャーなど見た目には良いとは思えないものでした。元ハンブルク州立オペラ首席奏者、バイロイトの常連のファゴット奏者ですが、口はへの時に近く、首は傾げられ、リードは斜にくわえられ、噛みついている様に見えたものです。しかし、それで先生は5〜6時間のレッスンを平気でこなしていましたし、素敵な音でした。それでは、何でも良いかと言うと、まさかそんな事は無いのです。

現象面を見る

力が入りすぎている目安を考えましょう。タンギングをする時、鏡を見て下さい。ボーカルが動いていませんか?押し上げる様にボーカルが動いていたら要注意。リードはその度に重量挙げの様なストレスを受けています。強いリードを使っている人はそれでも吹けますが、ピッチは上がり長い時間は演奏できません。私もこの状態が長かったのです。実は、ドイツはピッチが高いのでこうした状態の人が多いと思います。それでも、彼の国の人は唇の筋肉と息が、(言葉のせいか)強いので吹ける様です。ヘンカー先生も高かったですね。私は日本では高いと当時言われていたのですが、全然追いつきませんでした。

三田先生が「ドイツ人の真似をしても駄目ですよ、ピースクなんか120キロもあるんだから(ちなみにヘンカー先生も大きかった)」と良く言ってらっしゃいましたが、確かにそうです。体力に見合った演奏を心掛けないと何処かで息切れしてしまいます。強いリードは好きですが、強すぎると消耗します。体力を鍛える為の重量挙げは良いのですが、ボーカルで唇を鍛えない様にしましょう。

ちょっと本筋からそれた話/ヘニゲ先生の所で日本人の奏者が育ったのは、身体の大きさが良かったのではないかと思っています。全員見ている訳では無いですが、トゥーネマン氏の元ではやはり大きい人が上手く行っているのでは無いかしら。少なくともシュバイゲルトは大きかったし、ヘニゲ門下のトロークさんは大きくない。

軽すぎるリード

それでも疲れると口はへの時になります。この時軽すぎるリードは唇を支えてくれませんから、上手く演奏出来なくなります。疲れが無ければ唇はリードを支えられますが、疲れるとリードに支えて貰わなくてはいけません。こうした時は息だけで支える事になり、それでひしゃげる様では音も出ません。への時になった時、薄く軽いリードは実に辛い。ほどほどに丈夫で、新しいリードが常に必要です。

無駄な息の強さ

リードの試し吹きで「バリバリ」と、リードを壊しそうな勢いの人がいます。リードにとっても迷惑ですが、本人にとっても為にはなりません。当初、完成リード(自分で作っても同様)は「使える」状態で80%ぐらいの完成度です。と言うより、そうしておかないと良いものになりません。無闇に大音量を求める事で、実に無駄な事をしているのです。残りは吹いている内に本人の能力、吹き癖などに合って来て、初めて100%の状態になります。最も使われる mf の音量でテストしなければ、意味はありません。それで良ければ、後は貴方次第。これは演奏中もそうです。強すぎる息のせいで唇に余計な力が加わり、結果として唇に力瘤が出てしまいます。また、リードも深くくわえ過ぎ(浅いとリードが潰れるので)コントロールが充分に出来ません。さらに、その為に舌の使える場所が限定されタンギングが単調になります。くわえる場所が必要に応じて自由に変えられる程度の力で良いのです。

註/完成リードは森川リードの事です。他のリードは違うかも知れません。

最後に

先にも述べた様に人の身体は千差万別ですから、答は一つではありません。ここでは極く一般的に言えるであろう事を書きましたが、もちろん充分ではありません。また、受け口の人には意味が無い事もあると思います。受け口での演奏法は私には分かりません。結局、どんな場合も良いレッスンを通じて、良い状態を作るのが本道である事を忘れないで下さい。私流のアンブシャーを作る順序を最後に記します。

(1)リードに対しタンギングする場所を決める。

(2)上顎は首と繋がりしっかりしているので、上唇の位置を決める。

(3)最後に下唇をリードの下につける。

これは普通の順番とは違います。(2)(3)は通常は逆でしかも殆ど同時に行われます。飽くまで、最初に自分の最適な状態を見つける為の手順です。(1)が上手くなって変われば以降も変わるのです。疑問があればメールでどうぞ。

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