いよいよ大学当局が学長選挙現行制度の制度廃止に踏み出しました。
大学評議会は12月1日の新学長発令に際して文部省に制度廃止の約束をするのに間に合わせるため、11月18日に職員・教員のみの投票によって、本学規則から「学長選への学生・職員参加」を定めた項目を削除することを提案しました。
しかし学生と大学との間に結ばれた72年度確認書では、「学生参加制度について定めた規則・内規の改正については学生・院生と大学評議会との団体交渉での決定を経なければならない」と、学生の合意なき廃止は出来ないことになっているため、学生の意志を無視して現行制度の一方的改廃を行うことはこれまでのルールを決定的に踏みにじることになります。・・・・
(前期自治会の広報から一部掲載)
なお、三自治会は、「学生の合意なしで有権者投票(教職員投票のこと)ができるのかどうか」について話し合うための団体交渉を要望する予定です。
「学長声明」について
11月6日に伝えられたところでは、評議会は「全教職員学生に訴える」という学長声明を、全教員・全学生に封書で郵送しようとしていました。5、6日にかけて宛名書きに学生のアルバイト(時給約850円)を雇い、それらの経費は一橋大学の予算から出しました。しかもそれは予算執行でありながら教授会の審議も承認も経ていないという、事実上公費を勝手に持ち出したものです。
自治会と大学当局との若干の話し合いの結果、学部生・院生に対しての郵送はまだ行わないこととなりました(助手などには既に郵送)。
しかし11月9日午前に、大学評議会から郵送を開始する旨通告がありました。皆様のところにも届くと思われます。
以下に学長声明の全文を掲載します。また、一連の大学執行部の行為に対する三自治会および教職員組合の声明をこちらに掲載しています。
「全教職員学生の皆様へ」 1998.11.4
一橋大学評議会
記
評議会は、学長選考規則・学生部長選考規則の改正を提案し、各部局教授会での審議を踏まえながら、8月以降、職員側及び学生側の理解を得られるように、それぞれの側の折衝委員と折衝を繰り返してきました。
現学長の今月末の任期切れと新学長の発令時期を間近に控え、一橋大学を取り巻く厳しい状況の中で、評議会は、近日中に、各部局教授会に対して、改正案の審議及び、学長選考規則第10条に基づく規則改正のための教職員による賛否投票の実施を提案する必要があると判断しました。
これにかかわり、阿部学長は別紙のような声明を出されましたので、ご覧下さい。
「全教職員に訴える」
一橋大学長 阿部謹也
「大学は建物ではない」という言葉があります。かつてヨーゼフ・シュンペーターが本学を訪れたときの言葉として知られていますが、その真の意味がなんであったにせよ、そこには真実が含まれているといってよいでしょう。ゴーリキーの「私の大学」は建物としての大学ではなく、カザンの町でした。それでは皆さんにとって一橋大学はどのような意味で大学なのでしょうか。
優れた教師と学ぶ意欲のある学生がいるところ、それが大学だという意味で大学は建物ではないということもできるでしょう。しかし他方で現代の大学が建物を含めた施設抜きにはありえないということもまた事実であります。豊かな図書館、コンピューターシステム、課外活動施設などが大学生活に不可欠なものであることは誰でも知っています。
本学の学長・学生部長選考制度について数十年前から、文部省から指摘を受け、本学は「所要の措置を講ずる」と約束してきました。今回の選考に当たって文部省から予算を停止することも含めた措置がとられようとしています。しかも国立大学をめぐる厳しい環境の中で場合によっては独立行政法人化への道、あるいは民営化への道が開かれようとしています。独立行政法人になれば学長は任命制になり、研究・教育に関しては文部大臣から課題を与えられ、三年から五年の間の成果を効率に照らして評価されることになります。そこでは自治どころか研究・教育の自由も奪われてしまいます。民営化されれば授業料は現在の数倍にならざるをえないでしょう。このような状況の中で大学は今重要な決定を迫られています。
現行の選考制度は昭和20年に遡る制度で、除斥制度の本来の主旨は戦争協力者を排除するためのものでした。その後幾度かの変更を経て現在の形になっていますが、現在ではこのような制度を持っている国立大学は他にはありませんし、世界的にみても希なものです。この制度が大学の自治の象徴だという人もいますが、本学には重要問題については全学に知らせ、全学の協議のもとに決定するという慣行があります。事実小平の移転改築に関しては全学的な協議のもとに決定されてきました。現在の我が国の条件のもとでこの制度を維持するためには本学は大きな犠牲を払わなければなりません。研究・教育に大きな支障が生じてもこの制度を維持する必要があるかが問われているのです。
私は本学の約六千人の教職員、学生の生活を守るという立場から、この問題については、今一歩退いて研究と教育を守らなければならないと考えています。現在各大学は生き残りをかけて熾烈な競争をしています。今私たちがこの制度にこだわってその競争に破れれば当分の間一流大学という位置づけを捨てなければならなくなるでしょう。この制度の改正によっても職員、学生が大学のあり方について発言する機会は今後も保証されるでしょう。その意味で本学の自治は守られるでしょう。一橋大学の120年余の歴史を無にすることなく、今後の発展に向けて今は耐えるべき時だと考えています。全教職員学生の理解を求めたいと思います。
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