一番、好きな人。



ジュリアスはその日、いつにもなくゆったりとした時間を過ごせていた。
いつも、聖地にいる間の彼には舞いこむように仕事がやってきては、それをこなしていく。
本人はなんとも思っていないのであろうが、その眉間にはより一層深い皺が刻まれていることが少なくはない現状であった。
一度、執務室から臨むことの出来るテラスへと足を向けた。
自分が楽になるという事は平和であるということになるから、それはそれで喜ぶべきことなのかもしれない。
しかし…ジュリアスの胸には何か、寂しさのようなものが去来した。
「ジュリアス……ここであったか…。」
声をかけるまで気づくことが出来なかった。
目を見張ってクラヴィスの顔をじっと見つめる。
「…?何だ?」
「いつから…そこに…?」
クラヴィスは1つ喉の奥で笑うと手を組替えて言った。
「…つい先ほどだ…。何か、聞かれてはまずいことでも呟いていたか…?」
「なっ!………そのようなこと、この私に限ってありはせぬ。」
ジュリアスはそういって少し顔を背けた。
クラヴィスはその様子を見つめ、目を細めて笑う。
「ジュリアス……暇か…?」
クラヴィスはそういって答えのわかりきっている質問をした。
ジュリアスはその質問に一度詰まるとすぐに、顔を少し赤らめて告げた。
「………そなたには私のこの状態が忙しそうに見えるとでも言うのか…?」
「……フッ…そうだな。」
クラヴィスはそういってもう一度嬉しそうに笑った。


そっと、ジュリアスの金色にたなびく髪に指を絡める。


「クラヴィス………?」
髪に手を絡めたまま何も言わないクラヴィスにジュリアスは声を上げた。
「………聖地は平和だな…。」
「ああ…新しき女王が即位されて、随分と安定している。」
クラヴィスは長い間ジュリアスの髪を弄んでいたが不意に、髪に唇を寄せそこにキスをした。
「!」
「………キスなど初めてでもあるまい?」
ジュリアスを見上げ、ニヤリ、と笑む。
ジュリアスはすぐに顔を真っ赤にすると、髪の毛をクラヴィスの指から抜き取った。
「………そう怒るな…。」
クラヴィスの喉の奥だけで笑う声が何となくカンにさわった。
ジュリアスはクラヴィスをじっと見つめる。
「何だ………?」
クラヴィスが自分を見返したところでジュリアスは行動に出た。


瞬間、クラヴィスはグイと、引き寄せられていた。


ジュリアスは目をとじたまま、ぶつかるようにクラヴィスに唇を寄せる。
面食らったのはクラヴィスのほうで、しばらくの間、呆然としている。
「フン………いつもそなたばかりに余裕があると思うなよ?」
少し勝ち誇ったように…
少し恥かしそうに…

しばらくの沈黙のあと、気まずくなったジュリアスがクラヴィスのほうに視線を向けた。
「……な、何か言わぬか…。」
クラヴィスは口元を歪めて笑うと、ジュリアスを引き寄せる。
ジュリアスの重心が見事に崩れて、ジュリアスの唇をクラヴィスは何度も深く味わう。
「!…ん!!」
自分がいいと思うまで唇を味わって、クラヴィスはそれでも尚、名残惜しそうに唇をついばむ。
「離せ!!!」
あがった息のまま、ジュリアスはクラヴィスを睨みつけた。
それを受けとめるのはクラヴィスの笑み。
「誘ったのはお前であろう……?」
「くっ!!」
ジュリアスはその言葉に唇を噛み締める。
「も、もう!そなたなど知らぬ!!!」
ジュリアスはそう言うとテラスから姿を消した。
一人残されたクラヴィスはその後ろ姿を見ながら、この上なく嬉しそうに微笑んだ。


END


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