「君ノ瞳ニ恋シテル」
我ながら、健気です。
本当は、直射日光は美容の大敵で大嫌いだし。
どうせ塗っても落ちちゃうんだから、そのうち化粧も薄くなってしまった。
長く伸ばした爪も、マニキュアも台無しだし。
気まぐれに風に揺れていたブロンドも、邪魔だからひとつに束ねちゃおう。
哀しいほどに、恋していました。
聖地は、今日も、晴れ。
手入れの行き届いた庭は、幸せに満ちているようで。
風が吹くたびに、かわいい花たちがうれしそうに笑っていた。
持ち主の性格をよく表している、彼らしい庭だった。
「カティス、これどこに置くの?」
「ああ、こっちだ」
植え替えられたばかりの鉢を手に、
この庭の主の名を呼んだのは、夢の守護聖オリヴィエである。
常に360度、どこから見ても完璧にお洒落、なはずの彼が、
なぜ緑の守護聖所有の庭で、さんさんと降り注ぐ太陽の光を背に、
土にまみれているのか、と言えば、
それはひとえに、彼の人の好い性格、による。
カティスはその司るサクリアに相応しく、植物を愛し、
私邸の庭はよく整備された植物園さながらであったのだが、こう見えても、実は。
ガラガラガッシャ―ン!!!
「ああもう、何やってんのよカティス!!」
意外と、間の抜けたところがあったのだ。
さらに器用なのだろうと思わせて、その実そうでもない。良くて人並みである。
加えてマイペースなので、作業はのんびり、のんびり、遅々として進まない。
しっかり者で手先が人一倍器用でせっかちで、そのくせお人好しのオリヴィエ。
「もうあんたはいいから、指図だけしてくれれば。次は何すんの?!」
休日に初めてカティスの部屋を訪れた際に彼の手からスコップを奪い取って以来、
何かにつけては、こき使われている始末。
(どうも腑に落ちないんだよねェ…)
植木鉢に肥料を足す、という作業を繰り返しながら、オリヴィエはため息をつく。
これがまた、臭いがキツイ。
けれど確かに、カティスの植物に関する知識はかの、
地の守護聖ルヴァを凌ぐのではないかと思われるほどであり、
そのことについてはオリヴィエは、カティスに一目置いていた。
そして今日も、1日が過ぎて行く。
「うーん、さすがにこの歳になると、腰にくるなあ」
「あんたはほとんど、見てただけじゃないの」
もう、すっかり日は傾いていた。
「いや、助かったよ。ありがとうオリヴィエ」
「どういたしまして」
庭の真ん中に立って、沈む夕日を眺めた。
目頭が、熱くなった。
胸を何かに締め付けられているように。
苦しくて苦しくて、呼吸さえも困難になる。
支配されている。
息が詰まる。食欲さえなくした。
「あなたが好き」
たかが、それだけのことで。
「…オリヴィエ」
「なぁに?」
カティスがそっと、指をオリヴィエのそれに絡ませる。
ことん、と、オリヴィエはカティスの肩に頭を乗せた。
好きです。
好きです。
好きです。
私はあなたに、全て捧げて。
私はあなたが、好きなんです。
二つの影が一つになって、闇に溶けて行く。
ずっと、長い時間二人は、そこに立っていた。
優しい時間が過ぎて行く――――――。
哀しいほどに、恋していました。
私はあなたに、全て捧げて。
私はあなたが、好きなんです。
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