作曲家の個展「吉松 隆」
 作曲家の個展「吉松 隆」。堪能いたしました。

 吉松作品の初演に立ち会へる、それも最新の交響曲で。
 さらに、最初から最後まで全部吉松、それも吉松を振らせたら右に出る者がゐないであらう藤岡幸夫の指揮で。
 と、これだけでも垂涎のライブです。

 1曲目は、スコア(聞こえてくる音符や休符)に対して音が綺麗すぎた感がしないでもなかつたですが、まづは小手調べといつたところだつたのでせうか。それとも、あくまでクラシック系ストリングス・オーケストラで演奏する意義(?)を大切にしたかつたのでせうか。でも、この曲は異稿がいろいろあるやうなので、弦楽オケとしてはあれくらゐで丁度良かつたのかもしれませんね。

 2曲目は、私にとつては3度目のライブ。
 相変はらず堅実路線のソリストたちには「曲への畏敬」のやうなものを感じ、都響の金管が実は結構巧かつたんだ(失礼)と再認識できたのも嬉しかつたですね。スタンドプレイも格好良かつたです。
 特に美しい第2楽章では、吉松さんの今は亡き妹さんに対する思ひのことを思ひ出し、私は準重症病室に移つた祖母のことが頭をよぎりました。

 そして交響曲第5番。
 冒頭の音形を聞いて「信念を貫いたね」と頷き、そのあとは次から次へと繰り出される音楽を受け止めながら、「初演に立ち会へる幸せ」がふつふつと湧いてきました。
 全体的には実に堂々とした印象で、フィナーレに至り、冒頭の動機や以前の楽章が回想されるのはもちろん、祝祭的な雰囲気や高らかな調和音と相俟つて、日頃慣れ親しんでゐるクラシックの名曲と同じ感動を味はへた気がします。
 「これは、後世には今のマーラーのやうな人気曲になるだらうなあ」なんて思つたものです。

 藤岡さんの、熱し過ぎず、しかし決して冷めたりはしない絶妙な情熱が伝はつてくる見事な指揮と、それに応へて熱演を繰り広げた都響の皆さんに、大きな拍手を贈りました。あ、もちろん作曲した吉松さんにも。

 それにしても、この日のライブで幸せを覚え、至福は静穏だけが作り出す訳ではないことを改めて認識しました。
 ちなみに、吉松初演by藤岡による私の前回の‘至福’については、『吉松隆の新作初演に酔ふ』に書き記してあります。興味のある方はどうぞご一読ください。

concert data

2001/10/6 サントリーホール(東京)

吉松 隆
アトム・ハーツ・クラブ組曲(1997)
サキソフォン協奏曲「サイバーバード」(1994)*
交響曲第5番(2001)世界初演=サントリー芸術財団委嘱曲

藤岡幸夫(指)
須川展也(sax)*
小柳美奈子(p)*
山口多嘉子(perc)*
東京都交響楽団

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このページは長谷部 宏行(HASEBE, Hiroyuki)からの発信です
2023年5月23日版
(初出は2001年10月8日[藤岡幸夫ファンサイト(旧)への投稿])