同じ空




 思い出した。
 サユリが引っ越す時、悲しくて、でも強がって、
 気の利いた言葉が言いたくて、でも思い付かなくて、
 その時期読んでいた小説の言葉をアレンジして言ったんだ。

『そのあとの言葉も、一語一句もらさず覚えてるよ』

 サユリは確認するように、ゆっくりと続けた。

『昼と夜が逆だったり、日付変更線を越えたところに行くわけじゃない。
 同じ日本のチョット離れた所に行くだけサ。
 違うのは天気くらいだよ。天気くらい隣町でも違うものだし、
 僕たちは離ればなれになる訳じゃないよ』

 知らないうちに立ち止まっていた。
 自分がついさっきまで忘れていたようなことを
 サユリはこんなにもハッキリと覚えていたのか。

『すごく嬉しかったんだよ、本当に。
 あの言葉があったから、北海道で頑張っていられるんだよ』

 少し涙声のようにも聞こえる。

「そうか。いいこと言ったんだな、俺(笑)」
『そうだよー(笑)
 なのに忘れちゃってたのぉ?』
「いや、思い出したよ」

 空を見上げて思った。
 うん、そして忘れちゃいけない。

「空が繋がってるってね」


  


back