09月「避難」
「遅い」
でたよ。基本だな。
「避難を開始してから12分40秒も経っています」
朝礼台の上からストップウォッチ向けられても見えないって。
「5分以内に避難が完了されることが望ましいと言われています」
いや、4階の一番奥の教室から整列して走らずに5分以内なんて無理でしょ。
「そもそもこの5分以内というのは――――
ぎゃあ。『そもそも』が出ちゃったよ。教頭が語りだすと長いんだよなぁ。
全校生徒もそれに気づいたのか、にわかにざわめく。
「それでも、今日は涼しくてよかったよね」
「そうだな。毎年9月1日は暑いってのが相場なんだけどな」
「うん」
「まぁ夏休み明けに長時間立たされてるってのは、やはり辛いものがあるが」
「そうだね」
「さすがに今年は日射病で倒れるようなのはいなそうだけど・・・って、
言ってるシリから座り込んでるのがいる・・・・・・よ?」
「・・・あれ?」
「・・・美香?」
「そうみたい」
「マジかよ・・・」
「先生に連れて行かれたね。保健室かな?」
「俺も抜けるわ」
「えっ!?」
「体調超悪いってことで。じゃ」
「ちょっとぉ」
―――保健室
ガラガラガラッ
「・・・美香?」
「はいはい、ドチラさ〜ん?」
「あ、えぇ・・・と」
「あら、まだ避難訓練中でしょ?それともアナタも貧血か何か?」
「いえ。美香・・・大丈夫ですか?」
「小林さんの関係者?」
「はい」
「心配するのもわかるけど、抜け出してくるのは感心しないわね」
「すいません」
「来ちゃったものは仕方がないわ。顔見たら戻りなさい」
「はい。・・・美香?」
「お兄ちゃん」
「根性なしが」
「へへへ」
「怪我とかしなかったか?」
「うん、大丈夫」
「じゃ、ちゃんと休んでから教室戻れよ」
「うん」
シャッ
「しゅーりょー」
「そんな、カーテンまで閉めなくても」
「新学期早々ラヴラヴ見せつけられるのも腹が立つからね」
「はぁ?」
「はいはい。オニイチャンは戻ったもどった」
「・・・はい。失礼します」
「はい」
シャッ
「優しいお兄さんね」
「はい」
「すっかり顔色がイイじゃない」
「そうですか?」
「・・・・・・」
「何ですか?」
「なんでも(にやり)」
つづく
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