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聖書の起源

◆マルコはなぜ治癒神イエスを書いたか
 田川建三『原始キリスト教史の一断面』(一九六八)は、 治癒神イエスの奇跡物語伝承の担い手たちがたっていた不特定の空間を、 辺境ガリラヤに定位することによって、その問題史的局面を一変する。 それによると、福音書記者マルコが、 治癒神イエスの登場を生き生きと素朴に描きだすことに成功したのは、 マルコ記者のまったく独創的な手法によるという。 その手法の発見は、きわめて緊密な仕方で、マルコ自身のガリラヤ理解とひとつに結合されていた。 マルコは、ガリラヤによってエルサレムを意識し、エルサレムを意識することによって、 鋭くガリラヤに自己を定位したのである。したがって、マルコ福音書の全体は、 マルコにおけるガリラヤ理解を、いかに集中的に解明し得るかにかかっている。
 
 このようにして、ガリラヤは、田川にとってマルコ理解のクサビの石となったのである。 この田川の描き出す「ガリラヤ」の詳細は、ここでは特に必要がないので省略する。 ただ論旨のすすめに必要な程度に、次の三点にしぼって要約するにとどめる。
 その第一はガリラヤの辺境性である。 第二は、ガリラヤの異教性である。 第三は、反エルサレム的 − 反体制的性格である。

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