△古事記 上巻 天津日高日子穂穂手見命 そして、火照命は海佐知毘古(うみさちびこ)として、大小さまざまの魚を取り、火 遠理命は山佐知毘古(やまさちびこ)として、毛の荒い獣・柔らかい獣をお取りになって おられた。 さて、火遠理命はその兄火照命に 「お互いに獲物を取る道具を交換して使ってみよう」 と言って、三回も頼んだが、兄は許しませんでした。しかし、最後にやっと交換するこ とが出来た。 そうして、火遠理命は釣り道具で魚を釣られたが、全然一匹の魚も釣れなかった。そ の上、釣り針を海中に無くしてしまわれた。 そして、兄の火照命が釣り針を請求して言うには、 「山の獲物はやっぱり自分の弓矢でないとだめだ。海の獲物も矢張り自分の釣り針でな いとだめだ。お互いに道具を元通りに戻そう」 と言われたときに、弟の火遠理命が仰せられるには、 「兄上の釣り針は、魚を釣っていたが一匹も釣れず、しまいに海中に無くしてしまった」 と仰せになった。 しかし兄は、強引に返すように責めた。 そのため弟は、帯びていた十拳の剣を砕いて、沢山の釣り針を作って償ったが、兄は 受け取らなかった。また、更に沢山の釣り針を作って弁償したが、受け取って貰えず、 「矢張り、あの以前の釣り針が欲しい」 と言った。 |