△古事記 上巻 大国主神の版図奉献
 
 このようにして、(建御雷神は)また帰って来て大国主神にお尋ねになねには、
「貴神の子ら事代主神・建御名方神の二柱の神は、天神の御子のお言葉のとおり背かない と申した。さて、貴神の意志はどうか」
とお尋ねになった。
 
 ここで(大国主神が)答えられるには、
「僕の子ら二柱の神の申すように、僕も背きません。この葦原中国は、お言葉のとおり に献上致す。ただ、僕の住所だけは、天神の御子が継承して領有される立派なご住居の ようにして、岩の根に宮柱をしっかり立てて、高天の原に千木を高く上げて造って下さ るのなら、僕は遠い隅の方へ隠れて控えて居ろう。また、僕の子ら百八十神(ももやそ かみ、沢山の神たち)は、八重事代主神が統率してお仕えしたら、背く神はないであろ う」
と、このように申し上げて、(すなわち隠れられた。このように申し上げたように)
 
 出雲国の多芸志之小浜(たぎしのをばま)に立派な神殿を造って、水戸神の孫、櫛八 玉(くしやたま)の神が料理人になってご馳走をさし上げる時に、祝福の言葉を申し上 げて、櫛八玉神が鵜に化けて海底に入って底の波邇(はな、粘土)をくわえ出てきて、 大変平たい祭り用の土器を作って、海草の茎を刈って燧臼(ひきりうす)に作って、 海草の茎で燧杵(ひきりぎね)を作って、火を点させて祝福して申すには、
「この、わしが点した火は、高天原では、神産巣日御祖命の立派な新殿の煤が長々と垂 れるくらい焼き上げて、また地下では、底の岩盤に至るほど焼き固めて、栲縄(たくな は、楮)の長い縄を延ばして釣り上げた海人(あま)の大きな鱸(すずき)を、さわさ わと引き寄せて陸上げして、拆竹(さきたけ、スノコ)の台がたわむほどに盛り上げ、 立派な魚料理を献上しよう」
と申した。
 
 そして、建御雷神は(高天原に)帰り上って、葦原中国を服従させて平定した状を復 命されたのである。
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