△古事記 上巻 建御雷神と建御名方神 〈建御名方の神の服従〉 そこで、(建御雷神は)大国主神に尋ねられるには、 「今、貴神の子事代主神はこのように申した。他に意見を申すような子がおるか」 とお尋ねになった。 (大国主神は)また申した。 「もう一人、僕の子建御名方(たけみなかた)の神がいる。この子の他にはいない」 と、このように申し上げている間に、その建御名方神が千引岩(ちびきいは、千人がか りで引く大岩)を手先に差し上げてきて、 「誰だ、僕の国に来て、ヒソヒソと内緒話をしているのは。しからば力くらべをしよう。 僕が先にお前の手を掴もう」 と言った。 そして(建御雷神が)自分の手を取らせると、氷柱に変化させて、また剣の刃に変え てしまった。よって恐れて退いた。 今度は(建御雷神が)その建御名方神の手を掴んでやろうと、とって帰って来て掴ん だら、若葦を取るみたいに容易く掴んで投げ放ったので、逃げて行ってしまった。 それで追いかけて、科野国(しなののくに、信濃)の洲羽海(すはのうみ、諏訪湖) に追いついて、(建御名方神を)殺してやろうとした時に、建御名方神が申すには、 「恐れ多いことである。僕を殺さないでくれ。この諏訪の地を除いては他の地へは行か ない。また僕の父大国主神のお言葉に背きません。八重事代主神の言うことと違いませ ん。この葦原中国は、天神の御子のお言葉のとおり献上致す」 と申し上げた。 |