△古事記 上巻 天照大御神・月読命・須佐之男命(三貴子)の分治
 
 そこで次に伊耶那岐大神が左の目を洗ったときにお成りになった神の御名は、天照大 御神(あまてらすおほみかみ)である。次に右目を洗ったときにお成りになった神の御 名は、月読(つくよみ)の命である。次に鼻を洗ったときにお成りになった神の御名は、 建速須佐之男(たけはやすさのを)の命である。
 以上の八十禍津日神から下、速須佐之男命より前の十四柱の神は、身体を洗い清めら れたことによりお成りになった神である。
 
 このとき、伊耶那岐命はいたくお喜びになって仰せになるには、
「自分は御子を生みつづけて、一番最後に三貴子(みはしらのうづのみこ)を得たのだ」
と仰せになって、すぐにその首にかけていた首飾りの玉をゆらゆらと揺らして、天照大 御神にお授けになって仰せになるには、
「おまえは高天原(たかまのはら)を治めなさい」
と仰せになり、お任せになった。この首にかけた玉の名前を御倉板挙(みくらたな)の 神と申す。
 次に月読命に仰せになるには、
「おまえは夜之食国(よるのをすくに、夜の世界のこと)を治めなさい」
と仰せになり、お任せになった。
 次に建速須佐之男命に仰せになるには、
「おまえは、海原を治めなさい」
と仰せになり、お任せになった。
 
 そこで、それぞれ委任された言葉どおりに治めている中で、速須佐之男命だけは命じ られた国を治めないで、長い髭が胸元に伸びるまで泣きわめいていた。その泣く有様は、 青山が枯れ山になるまで泣き枯らし、河や海はすっかり泣き乾かしてしまった。このた めに、悪い神の出す物音は蝿が騒ぐみたいに一杯になり、あらゆる物の災いがことごと く起こった。そこで伊耶那岐大神は、速須佐之男命に仰せらなるには、
「どういう訳で、おまえは命じられた国を治めないで泣きわめいてるのだ」
と仰せになると、
 須佐之男の命は、
「自分は母の国である、根之堅洲国(ねのかたすくに、黄泉国のこと)に行きたいと思 うので泣いてるのだ」
と仰せになった。
 それを聞いて伊耶那岐大御神は、いたく怒られて、
「それならば、おまえはこの国に住んではならない」
と仰せられて、すぐに追放されてしまわれた。
 
 さて、その伊耶那岐大御神は、淡海(淡路とも)の多賀の社に鎮座されている。
[次へ進む]  [バック]