△古事記 上巻 伊耶那岐神・伊耶那美神 〈伊耶那美神の死〉 次に(伊耶那岐・伊耶那美の二神が)お生みになった神の御名は、鳥之石楠船(とり のいはくすふね)の神、亦の名は天鳥船(あめのとりふね)と申す。次に大宜都比売 (おほげつひめ)の神をお生みになり、次に火之夜芸速男(ひのやぎはやを)の神をお 生みになった。亦の御名は火之R毘古(ひのかがびこ)の神と申し、亦の御名は火之迦 具土(ひのかぐつち)の神と申す。 この火の神をお生みになったときの原因で、〔伊耶那美神は〕女陰を焼かれて病気に なってしまわれた。その吐き物にお成りになった神の御名は金山毘古(かなやまびこ) の神、次に金山毘売(かなやまびめ)の神、次に屎(糞)にお成りになったのは波邇夜 須毘古(はにやすびこ)の神、次に波邇夜須毘売(はにやすびめ)の神、次に尿にお成 りなった神の御名は弥都波能売(みつはのめ)の神、次に和久産巣日(わくむすび)の 神。この神の御子を豊宇気毘売(とようけびめ)の神と申す。 それで伊耶那美神は、火の神をお生みになったことにより、とうとう亡くなられてし まった(天鳥船神より豊宇気毘売神まで、併せて八神)。 数え合わせて、伊耶那岐・伊耶那美の二柱の神が共にお生みになった島は十四島、神は 三十五柱の神々である(是は伊耶那美神が、未だ亡くなられる以前にお生みになったも のである。ただ意能碁呂島のみは、お生みになったものではなく、また水蛭子と淡島と もども、この神の御子の数には入らない)。 と云うことで、伊耶那岐命の仰せになられるは、 「愛しい自分の愛妻よ、あなたを火の神の子供一人に生死を代え得ようか」 と仰せになって、伊耶那美神の枕の方へ這い、足の方へ這い廻ってお泣きになったとき に、涙にお成りになった神は、香山(かぐやま)の畝尾の木本にお出でになる、御名は 泣沢女(なきさはめ)の神である。 さて、そのお亡くなりになった伊耶那美神は、出雲の国と伯伎の国との境の、比婆の 山に葬られた。 |