△古事記 上巻 伊耶那岐神・伊耶那美神
 
 さて、天つ神全て神々の命(みこと、お言葉・仰せのこと)により、伊耶那岐・伊耶那 美の二柱の神に、
「この漂っている国を整えて、固めて完成しなさい」
と仰せになって、天の沼矛(あめのぬぼこ)を授けて、お任せになった。それで二柱の 神は天の浮橋にお立ちになって、その沼矛をさし下ろしてかき回されて、海水をころこ ろと鳴らして矛を引き上げたときに、矛の先から滴り落ちる海水が積もったのが島にな った。これが淤能碁呂島(おのごろじま)である。
 
 その島に天降りされて、天の御柱を立てて大きな御殿をお建てになった。そこで伊耶 那岐命(いざなぎのみこと)は伊耶那美命(いざなみのみこと)に、
「あなたの体は、どんなふうに出来ているのか」
と尋ねられたので、
「私の体は、出来上がってきてはいるが、まだ出来上がっていない所が一箇所ある」 と答えられた。それで伊耶那岐命の仰せられるのには、
「自分の体は、出来上がってきてはいるが、出来すぎた所が一箇所ある。であるから、 この自分の体の出来すぎた所をあなたの体の出来ていない所に刺して、国を生み出そう と思う。どうであろうか」、
と仰せられると、
 伊耶那美命は、
「それは良いことである」
とお答えになられた。
 
 そこで、伊耶那岐命は、
「それなら、自分とあなたがこの天の御柱を廻りあって、愛し合いましょう」
と仰せになった。
 このように約束して、早速、
「あなたは右から廻って自分に逢えよ。自分は左から廻ってあなたに逢おう」
と仰せになって、約束して御柱を廻るときに、伊耶那美命がまず、
「ほんとにもう、愛しい人だ」
と仰せになって、その後で伊耶那岐命が、
「ほんとにもう、良い娘だ」
と仰せになって、それぞれ仰せられた後で伊耶那岐命はその妻伊耶那美命に、
「女の方が先に声をかけたのは、良くない」
と仰せになった。
 しかしながら、事を始めてお生みになった子は水蛭子(ひるこ)であった。この子は 葦船に入れて流し捨ててしまわれた。
 次に淡島をお生みになった。これも子供の数には入れなかった。
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