△古事記 中巻 品陀和気天皇(応神天皇)
 
〈髪長比売〉
 天皇が、日向の国の諸県(もろがた)の君の娘、名は髪長比売(かみながひめ)の容 貌が美しいとお聞きになって、側にお使いになろうとしてお召し上げになったときに、 その太子の大雀命は、その乙女が難波津に泊まっているのを見て、その容姿の美しいの に感動して、早速建内宿禰大臣に頼んで仰せになるには、
「この日向からお召し上げになった髪長比売は、天皇の大御所(おほみもと)にお願い 申して、自分に下さるようにしてくれ」
と仰せになった。
 そこで建内宿禰大臣は、天皇のお言葉をお願いすると、天皇はすぐに髪長比売をその 御子に賜った。
 賜った様子は、天皇が豊明(とよあかり、大きな酒宴)を催した日に、髪長比売に大 御酒の柏(かしは)を持たせてその太子に賜った。
 そして御歌をお詠みになるには、
「いざ子等 野蒜摘みに
蒜摘みに わが行く道の
かぐはし 花橘は
上つ枝は 鳥居枯らし
下づ枝は 人取り枯らし
三栗の 中つ枝の
ほつもり 赤ら嬢子を
いざささば 宜らしな」
 
また、御歌をお詠みになるには、
「水溜る 依網の池の 堰杙打ち
ひしがらの さしける知らに
ぬなは繰り 延へけく知らに
わが心し いや愚にして 今ぞ悔しき」
 このように歌って賜った。
 そしてその乙女を賜った後に、太子がお詠みになるには、
「道の尻 古波陀嬢子を
雷(かみ)のごと 聞こえしかども 相枕まく」
 また、お詠みになるには、
「道の尻 古波陀嬢子は
争はず 寝しくをしぞも うるはしみ思ふ」
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