△古事記 中巻 帯中日子天皇(仲哀天皇)
 
〈神託〉
 そこで、ようやくその琴を引き寄せて、いい加減にお弾きになっていると、いくらも 経たないうちに琴の音が聞こえなくなった。すぐに灯を点して見るみると、既に(天皇 は)お亡くなりになっていた。
 
 よって驚き恐れて、殯宮(あらきのみや)に安置して、更に国の大奴佐(おほぬさ、 お供え物)を取り集めて、生剥(いきはぎ)・逆剥(さかはぎ)・阿離(おはなち)・溝埋 (みぞうめ)・屎戸(くそへ)・上通下通婚(おやこたはけ)・馬婚(うまたはけ)・牛婚 (うしたはけ)・鶏婚(とりたはけ)・犬婚(いぬたはけ)の罪の類をいろいろ列挙して、 国の大祓(おおはらへ)をして、また建内宿禰が神託を受ける庭に居て、神のお告げを お求め申した。  ここに(神託で)お教えになる状は、全く先日のものと同じで、
「およそこの国は、貴命の腹に居られる御子の領有支配する国である」
とお教えになった。
 そこで建内宿禰は、
「恐れ多いことである。わが大神よ、その神のお腹に居られる御子は、どのような(男 か女か)御子であるか」
と申したら、
「男子(ひこみこ)である」
と仰せになった。
 更に詳しく神託を請われられるには、
「今、このようなことを神託でお教えになる大神は、その御名を知りたいと思う」
と申すと、すなわち答えて仰せになるには、
「これは天照大御神の御心である。また、底筒男・中筒男・上筒男の三柱の大神である (このときに、その三柱の大神の名は明らかになられた)。  今、真に(西方の)国を求めようとお思いになるなら、天神地祇(あまつかみくにつ かみ)、また山神、河海の神たち、全てに幣帛(みてぐら)を奉り、自分の御魂(みた ま)を船の上にお鎮めになって、真木の灰を瓢(ひさご)に入れ、また、箸と比羅伝 (ひらで、葉の器)とを沢山作って、それらを全部大海に散らし浮かべて渡るように」
と仰せになった。
[次へ進む]  [バック]