△古事記 中巻 大帯日子淤斯呂和気天皇(景行天皇) 〈伊吹山〉 このようにして、ご結婚されて、その刀の草那芸剣を美夜受比売の許に置いて、伊服 岐(いぶき)の山の神を討ち取りにお出かけになった。 そこで(倭建命が)仰せになるには、 「この山の神は、素手ですぐに討ち取ろう」 と仰せになって、その山(伊吹山)に登られたときに、山辺で白い猪に出会った。その 大きさは牛の如くであった。 そこで、言挙して(ことあげ、大声を出して)仰せられるには、 「この白い猪に変身している者は、その神の使いであろう。今殺さなくても、帰る時に 殺してやろう」 と仰せになって、お登りになった。 そこで(山神が)大氷雨を降らせて、倭建命を打ち惑わせた(この白い猪に変身した 者は、神の使いではなく、その神自身であったのであるが、言挙げされたにより、困惑 されてしまったのである)。 そして、(山から)帰って下りられてて、玉倉部(たまくらべ)の清水に着いてご休 息になったときに、次第に正気に換えられた。 それで、その清水を名付けて居寤(ゐ さめ)の清水と云う。 |