△古事記 中巻 大帯日子淤斯呂和気天皇(景行天皇)
 
〈尾張・相模〉
 さて、尾張国に着いて、尾張国造の祖先、美夜受比売(みやずひめ)の家にお入りに なった。
 すぐに(比売と)結婚しようと思ったが、また(都に)帰り上るときに娶ろうと思っ て、約束をして東(ひむがし)の国にお出でになって、山河の荒ぶる神、また従わない 人どもを皆服従させ平定なされた。
 
 そして、相模国に着いたときに、その国造が嘘を申すには、
「この野原の中に大きな沼がある。この沼の中に住む神は、大変強暴な神である」
と申した。
 そこで、(倭建命は)その神をご覧になろうと野原にお入りになったところ、その国 造は火を野原に放った。そこで(倭建命は)、
「だまされた」
と気づいて、叔母の倭比売命がお与えになった袋の口を開けて見てみると、その中に火 打ち石があった。そこで、まず刀で草を刈り払って、火打ち石で火を打ち出して、向い 火を点けて焼き退いて、脱出し、その国造どもを切り滅ぼし、火を点けてお焼きになっ た。
 故にそこを、今に焼津(やきづ)と云う。
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