△古事記 中巻 大帯日子淤斯呂和気天皇(景行天皇)
 
〈東国へ〉
さて、天皇は、また重ねて倭建命に、
「東の方、十二道(十二国)の荒れすさぶ神、また服従しない人どもを従わせて平定さ せよ」
と仰せになって、吉備臣たちの祖先、名は御鋤(金偏+且)友耳建日子(みすきともみ みたけひこ)を副えて遣わすときに、比比羅木(ひひらぎ、ヒイラギ)の長い矛を与え られた。
 そして、お言葉をお受けになって、お出かけになるときに、伊勢大御神にお参りして、 神の朝廷を礼拝されて、叔母の倭比売命に申し上げるには、
「天皇は、はやく自分が死ぬようにお思いになっている。どうして、西の方の悪い人ど もを討ちに遣わして、帰って上京してきたら、まだいくらも経っていないのに、軍隊も お与えにならないで、また更に東の十二道の従わない人どもを平定に遣わすのであろう か。
 このようなことを考えると、やはり自分は、はやく死ぬようにとお思いになっておら れるのである」
と申して、泣き悲しんで退出されるときに、倭比売命は、草那芸剣を賜わり、また御袋 を賜わられて、
「もし、火急のことがあったなら、この袋の口を開けなさい」
とこのように仰せになった。
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