△古事記 中巻 御真木入日子印恵天皇(崇神天皇) 〈三輪山伝説〉 この意富多多泥古と云う人を神の子と知った訳は、上述した活玉依毘売は、容姿端正 であった。 さてここに、若い男が居て、その容姿も態度も比類なかったので、夜半に突然やって 来た。そしてお互いに愛でて結婚して、一緒に住んでいる間、まだそれほど時も経ってな いのにその娘は身ごもった。 そこで、父母は身ごもったことを不思議に思って、娘に、 「お前はなぜ一人なのに身ごもったのか。夫もないのにどのようにして妊娠したのか」 と尋ねたら、答えるには、 「立派な男で、その名前も知らないが、毎晩来て一緒に住んでいる間に、自然に妊娠した のである」 と言った。 そこでその父母は、その男の素性を知ろうと思って、娘に教えるには、 「赤土を床の前に散らして、閇蘇紡麻(へそを、糸巻きの麻糸)を針に通して、(その 男の)着物の裾に刺しなさい」 と教えた。 そして教えのとおりにして、夜明けに見てみると、針をつけた麻糸は戸の鉤穴から抜 け出ていて、残った糸は三巻きだけであった。そこで、鉤穴から出て行った様子が分か って、糸を頼りに後を辿って行くと、美和山(三輪山)に到着して(大神)神社に留ま っていた。 そこで、(意富多多泥古を)神の子であると知った。 その麻糸が三巻き残ったところから、そこを名付けて美和と云うのである(この意富 多多泥古命は、神君、鴨君の祖先である)。 |