△古事記 下巻 白髪大倭根子天皇(清寧天皇)
 
〈闘歌〉
 さて、天下をお治めさせようとしている間に、平群臣の祖先の、名は志毘(しび)の 臣が歌垣に立って、その袁祁(をけ)の命が求婚しようとする美人(をとめ)の手を取 った。その嬢子は菟田首たちの娘、名は大魚(おふを)と云う。そこで、袁祁命も歌垣 にお立ちになった。
 ここで、志毘臣が歌うには、
「大宮の をとつ端手 隅傾けり」
 
 このように歌って、その歌の末(下の句)を所望したときに、袁祁命が歌われるには、
「大匠 拙劣みこそ 隅傾けれ」
 
 すると志毘臣が、また歌うには、
「大君の 心を緩み
臣の子の 八重の柴垣 入り立たずあり」
 
 そこで王子が、また歌われるには、
「潮瀬の 波折りを見れば
あそびくる しびが端手に 妻立てり見ゆ」
 
 そこで、志毘臣がますます怒って歌うには、
「大君の 御子の柴垣
八節結り 結りもとほし 切れむ柴垣
焼けむ柴垣」
 
 そこで、王子がまた歌われるには、
「大魚よし しび突く海人よ
しがあれば うらこほしけむ しび突く志毘」
 このように歌って、徹夜して、それぞれ退いた。
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