△古事記 下巻 大長谷若建天皇(雄略天皇) 〈遊猟〉 それから阿岐豆野(あきづぬ)にお出でになって、狩をなされたときに、天皇は御呉 床にお座りになっていた。すると虻(あむ、虫偏+口構え+ヌ)がその腕に食いついた ので、蜻蛉(あきづ)が来てその虻をくわえて飛び去った。 そこで、御歌をお詠みになった、その御歌 「み吉野の 小室が岳に しし伏すと 誰そ 大前にまをす やすみしし わが大君の しし待つと 呉床に坐し しろたへの 袖きそなふ 手腓に 虻かきつき その虻を 蜻蛉はや咋ひ かくのごと 名に負はむと そらみつ 倭の国を 蜻蛉島とふ」 故にその時から、その野を阿岐豆野と云う。 またある時、天皇が葛城の山の上にお登りになった。すると大きな猪が出てきた。す ぐさま天皇が、鳴り鏑でその猪を射られたときに、その猪が怒って、唸って寄って来た。 故に天皇は、その唸り声を恐れて、榛(はりのき)の上に逃げ登った。そして御歌を詠 まれるには、 「やすみしし わが大君の あそばしし 猪の病み猪の うたき畏み わが逃げ登りし ありをの 榛の木の枝」 |