△古事記 下巻 穴穂天皇(安康天皇)
 
〈大長谷王の怒り〉
 ここに大長谷王子は、その時童男(をぐな、少年)であった。そしてこの事件をお聞 きになって、憤って怒って、すぐに同母の兄の黒日子王の御許へ到着して、
「人が天皇をお殺しになった。どのようにされるのか」
と仰せになった。
 しかしながら、その黒日子王は少しも驚かないで、いい加減なお気持ちであった。こ こに大長谷王は、その兄を罵って、
「一方では天皇であられ、一方では兄弟であられるのに、どうして頼もしいお心もなく、 人が兄をお殺しになったことを聞いても驚きもせずとは、愚かに思う」
と言って、ただちにその襟首を掴んで引き出して、刀を抜いて(黒日子王を)打ち殺し てしまった。
 
 また、その兄の白日子王の所へ行って、先の事件を告げ申したところ、この王もまた、 黒日子王のように、いい加減に思われていたので、すぐにその襟首を掴んで引き出して、 小治田(をはりだ)に至り、穴を掘って立ったまま埋めたところ、腰を埋めるときにな って、両眼が飛び出して死んでしまわれた。
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