△古事記 下巻 穴穂天皇(安康天皇)
 
 穴穂御子は、石上の穴穂宮にお出でになって、天下をお治めになった。
 天皇は、同母の弟大長谷の王子のために、坂本臣たちの祖先の根臣を大日下王の御許 にお使いにやって、お告げ申し上げさせるには、
「汝命の妹の若日下王を、大長谷王子に娶らせたいと思う。故に奉るように」
とお告げ申し上げさせた。
 すると大日下王は、四回拝んで申し上げるには、
「もしかしたら、このようなお言葉もあろうかと思っていたので、(妹を)外に出さな いで置いている。これは恐れ多いことである。お言葉のとおり奉ろう」
と申し上げた。
 
 しかしながら、ただ言葉だけで申す事は失礼であると思って、すぐにその妹の礼物 (ゐやじろ、奉り物)として、押木之玉縵(おしきのたまかづら、木の形の玉飾りの冠) を(根臣に)持たせて奉った。
 根臣は、そのまま礼物の玉縵を盗み取って、大日下王を讒言(ざんげん)するには、
「大日下王は、お言葉をお受けせずに、
『己の妹は、等族(ひとしうから)の下席(したむしろ、下敷き(妃になると云うこと)) にはしない』
と言って、太刀の柄を握って怒っていた」
と申した。
 
 そこで、天皇はいたく怒って、大日下王を殺して、その王の正妻の長田大郎女を奪っ て連れてきて、皇后にされた。
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