下タ沢会によせて(覚書)

附1 閉山こぼれ話し

 いの一番に駆けつける
 
 それは後二〜三日で閉山を迎えるという五月の二十八〜九日の頃であったろうか、 何んの用事であったか今は思い出せないが、朝八時半頃採鉱の事務所に行ったら、 皆現場に出て行って山田課長も出かけるところで一人残っていた。私を見て「まあ 座れ」ということで色々話しているうちに、「尾去沢鉱山が将来また再開すること があったら、我々がいの一番に駆けつけてきて、さく岩機を握るんだ」それで「大 物の切羽にいつでも仕事ができるようにさく岩機や発破機など採掘に必要な道 具を一式おいてきたよ」、といっていました。それは入社以来三十余年採鉱一筋に 生きてきた男の、この名鉱山といわれた尾去沢鉱山を閉めなければならない最後の 採鉱課長としての重責をひしひしと感じながら、この鉱山を閉めたくないという思 いの交錯する断ちがたい愛着の思いであったろうと思います。それはまたこの鉱山 に働いていた私達一人ひとりの気持でもあったと思います。

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