下タ沢会によせて(覚書)

直し酒

 鯡が三王などと右往左往しているうちに、肝腎の酒の方を忘れるところだった。 私は直し酒とは、直会の時に飲む酒のことかと思った。直会(なおらい)というの は、広辞苑によると、「神事が終って後、神酒、神饌をおろしていただく酒宴」と ある。何にかの本に、お供えした物を下げて、神様と一緒にいただく、とあったよ うな気がして、その本をさがしてみたが見つけれないでいる。ただ神様を拝む時に、 降神の儀とか、昇神の儀とかいう時もあるし、特にそういわない時もある。ともあ れ降神昇神というのは、神社には神様が住んでいるから、特に必要ないのではない か(尾去沢の(両社)山神社を拝むときは特にやらない)。これは神様のいない所 (例えば野外の地鎮祭など)で神事を行う場合に、神様をお呼びして、終れば帰っ ていただく、ということかもしれない。そのうちに神主さんに聞いてみようと思っ ている。となれば、神様が天に昇ってしまっては、一緒にいただくわけにはいかな いので、これは私の思い違いかもしれない(神事の始めと終りに太鼓をたゝく、 あれがそうかもしれない。)。
 
 ともあれ直し酒とは、目出たい時の酒のことだろうと思った。そのうちに「鹿角 市史資料編第二集」の阿部恭助日記の「阿津免草(久佐、くさとも。文久3年 (1863)から明治3年(187)の日記、全15冊、途中4冊なくなっているという)をな んとなくパラパラと見ていたら、直し酒というのがよく出てくる、と一所にお膳に つけた料理品目もある。どうせ正月とかお祭りとか何かあらたまった目出たい席の ことだろうから、と気にもしないで、パラパラの最後にいったら、「用語解説」と いうのが出てきた。これはこの資料編集に関係した人が鉱山用語をまとめて解説し たものだと思う。例えば、詰合とか廻銅支配人、山先とか42項目あるが、その最後 の項に、「直し酒、濁酒の少し変ったものに火を加えたもの。」とある。とたんに ゴックンと祝酒がすっぱくなった。
 
 私がシベリアから帰った後も、しばらく「どぶろく」が主流の時代があった。私 はどぶろくを造ったこともないし、造れなかったので、お祭とかお盆とか何にかあ るときは、もっぱら出来合いを買った。その頃は相手があればいくらでも呑むが、 ふだんはのみたいと思わなかった(いつ頃から晩酌をやるようになったか思い出せ ない)。それで今のように冷蔵庫もなかったので、床下に入れておいた。忘れた頃 に思い出すと「すっぱく」なっている。今ではあまり見ることもなくなったが、そ の頃はどこ家にも「ふかしガマ」があった。焼酎をつくることを教えてもらってや ってみたが、下手は何をやっても下手で、うまくできなかった。それでつい、すっ ぱくなったが、重曹でも入れてのむか、と相手をさそった。

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