下タ沢会によせて(覚書)

星はすばる、谷あいもすばる

○下新田御境南森より相図之一炮打鳴候ハヽ土高井場ニて請附ケ、太鼓を打鳴狼煙 を揚ケ候ハヽ台持長根ニて請継相図之事
 
 さて下新田の南森というのは、竜ケ森の麓の方にあるというが、土高井場はわか らない。問題は台持長根、今の国土地理院の地形図では、「大物」の字をあててい る。昔は「だいもち」長根といったと聞いたことはあるが、鉱山では「おおもの」 といっていた。湧上りから下新田方向にのびる長根。尾去沢が三菱から独立して (昭和47年)新会社になってから、この大物のボーリング探鉱で鉱石を掘当て、昔 といっても戦時中か?、この方向に向って掘りかけていた旧坑を取明け、坑外から 斜めに坑道を切って、この大物通(金偏+通)と名付けた鉱脈の開発を進めた。非 常に高品位の鉱石が出たので、物価の高騰、銅価の下落といった中で、尾去沢鉱山 の起死回生、再生の中核になるかと期待をよせたが、長く続かず閉山の止むなきに に至った。
 
○物見は見晴宜処江扣(ヒカエ)、敵之進退廻伏人数之多少等諸手江通達、時宜ニ 寄御指揮次第土深井口迄も応達可有之哉之事
  但所々狼煙鳴物等ハ物見役懸リ之事
○人数手分は臨時号令可有之候得共、大略ニ組三組或ハ四組迄之手分地形之廣狭に 随ひ候事
○相言葉は上磐下番(磐か)冠根合鎚手斬(金偏+斬、ザン)手何れも金掘言葉ニ 定候事
 
 いかにも金掘りらしい日常作業に添った決め方だと思う……。斬(金偏+斬)は タガネ、ノミ。
 
○敵勢秋田大葛口より押入候ハヽ一本栗ノ木詰手より相図の一炮打鳴、狼煙揚候ハ ヽ台持長根ニて請継、太鼓三調子打候ハヽ後備より繰戻迅速応援之事
  但黒沢口出張之物見方江相図響達可有哉之事
○銃士は散兵之格を以五人一組ニして茂ミ江忍、両平ラより相図次第敵之頭目忍 (身辺+忍、ねらう)打之事
 
 「忍(身辺+忍)」、……国字。こしらえる。しのぶ。ねらう。となればこの場 合、敵の大将をねらい打ちにする、ということか。
 
○当敵之銃卒炮発之節は俄ニ地下江臥、鋪中小廊下通行之心得ニて進み、敵間拾四 五間位近詰候ハヽ無二無三ニ得物を以突掛リ候事
  但此節急皷之調子ニて進候事
 
 いよいよ歩兵の本領を発揮する時が来た。つまり敵に打たれたら急いで伏せろ、 そして鋪の中の狭い坑道を行く要領で小腰をかがめ、姿勢を低くして進み、14〜5間 に近づいたら一気に突撃、ということか。ただ急皷之調子がよくわからない。我が 国の軍隊では、突撃ラッパを吹くことになっていたが。皷は鼓の俗字という。

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