今、「卒然(そつぜん)」という言葉が出てきたが、辞典によると「にわかなさ
ま。だしぬけなさま。」ということで、「突然」のことだという。私達は卒然など
とはいったことはないが、昔は普通に使っていたかもしれない。 ところでまた鐇(チョウナとも)が出て来たが、その用途は木を伐り倒すことの ようだから、ノコギリよりもマサカリ(鉞)とかオノ(斧)と考えた方がいいよう な気がする。 それはそれとして、新田の「昴り合近所」とあるが、「昴り合」の「昴」をなん と読むか。漢字の辞典をみると、昴は「こう」で「あがる」とか「たかい」とかい う意味があるようだが、それでは通じない。首をひねって半年もすぎた。今、こう して戊辰戦争のことを書いていて、安村(二郎)先生の解題の中に、「下モ新田す ばり合」というのが出て来たのを思い出して、すばり合いとはどこだろうと考えて みた。下新田と別所の境いのところが、山がせまってきて狭くなり、その間をやっ と川が流れ道が通っている。そこが南部と秋田の国境いだったと聞いたことがある。 柴をしばるでも、草をしばるでもいいが、しばったところがぎゅうっと細くなる。 わかりやすくいえばヒョウタンの胴のくびれたところのように、しばるでもすぼる でもでもいいが、そこの道路の上の峯のところに、境塚(南部と秋田)があった (柳舘計一さんの調べたところによる)、ということで、6〜7年前尾去沢の文化財 保存会(柳舘計一会長)の人達が境塚の標柱を建てた。実さいにあった峯のところ は、岩盤で建てるのが難しいので、下の道路の脇に建てたが、そこが谷合いが狭く なっているので、多分そこを「すぼり(しぼり)合い」といったのではないかと思 って、浅岡活男さんに聞いてみたら、やはりそこのことだという。どんな字を書く かと聞いたら、たしか牛乳をしぼるとかドブロクをしぼるときなどの、搾るという 字だったと思う、と。それにしても、阿部恭助さんがなんで昴の字をあてたろうと 思った。そういえば、「すばる」という星の名は、この字を書いていたような気が して、何にか関係があるのかと思って、星のことを書いた本をさがしてみたら、古 い本だが「星の歳時記」というのがあった。その中に「すばるは、牡牛座に属する 散開星団で云々」はいいとして、「星はすばる、ひこ星、明星……」と枕草子にも、 いの一番にあげられている、という。枕草子といても1000年も前の話しで、本の名 前は知っているが、読んだこともない。すばるなどとは、ヨーロッパの方から伝わ ってきた星の名前かと思っていたが、日本でも昔からすばるといっていたようだ。 そして続けていう「我が国古来の呼名は「す(統)ばる」、すなわち勾玉を連ねた首 飾りのことである。」と。「中国の星座では二十八宿の一つ昴宿(ぼうしゅく)の ことだ。」という。ここで昴の字がでてくる。が、下新田には通じない。ヤレヤレ と思ったが、広辞苑の「すばる」を見直してみる、「すばる〔昴〕、牡牛座の、と いう説明はぬきにして、「肉眼では普通六個の星が見えるので、六連星(むつ らぼし)ともいった」と。なんとしてもげ新田の「すばり合い」には結びつかない。 もういいやと思ったが、念のためにと続いて「すばり」「すばる」を見たら、「す ばり〔窄〕、すぼまって狭くなること」。「すばる〔窄る〕、せまくなる。ちぢま る。」とある。最初からここを見ればよかった。ドブロクをしぼったり、ヒョウタ ンを引っぱり出すこともなかった。 それにしても、阿部恭助さんは、なんで昴の字をあてたろう。昴と窄では正に天 地の差がある。おそらく、勝手な想像だが、さらさらと書いてきたとき、無意識に 書いたのか、一日の仕事が終って夜になってから書いたと思うから、夜空にはすばる が出ていたろうか、ともかく非常に達筆で、学のあった人(若い頃江戸に出て勉強 している)といわれているから、「すばる」という星のことはよく知っていたろう と思われる。 下新田でドブロクをしぼっているうちに、時間がたってしまったが、さて続いて、 |