下タ沢会によせて(覚書)

正月

 正月は、餅をついてもらうのが楽しみだった。私の家(相馬家)では、正月に門 松を立てなかった。立てられないんだ、といわれて子供の頃はそういうものか、と 別に気にもしないでいたし、大きくなってからも、その家にはその家のしきたりも あるのだろうからと思っていたが、子供が生れたときに門松を立ててやりたいナー と思って、幸子の姉(ヒサ)に聞いたことがあった。そのときチャンと書いておけ ばよかったが、今ではうろおぼえになってしまった。なんでも私達のオジイさんの 頃かその前か、正月に立派な門松を立てたら、元旦の朝かにその門松にウンコをも りっとされていたとか、それで人のうらみではないだろうが、うらやましがられる というか、反感を買うようなことはすべきではない、ということで、それ以来門松 を立てないようになったと。今でも私の家では、門松を立てていない。

 正月近くなると、父親達がしめ縄(年縄、私達はトシナといったと思う)を一生 けん命なっていた(普通と反対の左よりなので、私はなえない。今では尾去沢では、 農家の方はどうか知らないが、自分でしめ縄をなう人はいないと思う。スーパーか どで門口などに下げるしめ飾りを売っているので、殆んどの人はそれを買ってきて 下げていると思う。山神社では、いわゆるトシナと一の鳥居にはる、太い大きいし め縄は八幡平の老人クラブの方で、事業として作ってくれているので、そちらに注 文して作ってもらっている)。なにせ家の中じゅう神様だらけだった。恵比須様大 黒様をはじめ、カマドの神さま、流し(台所)の神さま、火棚の神さま、というの もあったような気がする。とにかくいろんな神さまがあった。それにみんなしめ縄 を張り、お供えを上げて拝んでいた。皆さんの家にはどんな神さまがあったろうか。 正月が終ると私の家ではそのしめ縄を外して、家の前の梅の木にかけていたような 気がするが、それをどうしたのか思い出せない。

 年越の時には、子供達一人ひとりにもお膳をつくってくれた。どんなご馳走が並 んでいたか、あまりおぼえていないが、私の家では必ず大根ナマスに魚が2匹ついて いた。大体ハタハタだったと思うが、イワシのときもあったような気がする。魚を つけるのは、お頭つきでお祝いするということだったと思う。ナマスには、必ずハ タハタのブリコが入っていた。さしみといっても、今のように何んでもありの時代 ではなかったので、我家ではスダコでもつけばよい方だつた。サメのさしみがつい たことがあったかもしれない。小さい頃は、タコのイボ(吸盤)をもらつて、ナジ キ(おでこ)にペッタンコ、ペッタンコとくっつけて、よろこんだものだった(そ れをどうしたって?、最後には食っちゃった)。ナマコも忘れられない。
 小正月になると、また餅をついてお供えを上げて、15日の夜は女の年取りといっ て、同じようにお膳をつくってもらった。デンブ、煮しめ、黒豆、カズノコ、どこ の家でも似たようなご馳走だったと思う。

 皆さんの家ではどうか知らないが、私達の家(相馬家)では、大正月に神さんに お供えを上げるのと一緒に、仏さんにはお供えのほかにオニギリを12ケ(閏年には 13ケだったと思う)つくって、真中に割箸1本立てて、お膳に並べて上げていた。 オニギリはひらぺったくつくって、今のL左サイズのミカンくらの大きさだった。 それ何んのために上げるのか、どんないわれがあるのか、聞きもしかったのか、聞 いたけれども忘れたのか、今はわからない。そのオニギリはすぐ凍ってしまったが、 それをどうしたか思い出せない。干しておいて夏頃食べる日があったような気もす る。

 正月の七日は鏡開きだった。どこの家でも鏡餅といって、床の間にかざっていた。 11日にやるところもあるようだが、私達は七日だった。キャの汁をつくるのは、小正月 の16日だったと思う。七草などといったかどうか知らないが、いろんな野菜や山菜、 豆類も入っていた。トーフはどうだったかわからないが、アブラゲ(油揚げ)は入 っていた。ニボシのダシだったと思う。冬場は栄養不足になるので、栄養分を補給 する昔の人の智恵だったうか。大きい鍋につくるので、何日も食べた。私は、自分 でつくったことがないので、中味はあやふやになったが、今では尾去沢の方では、 殆んどつくる人はいなくなったと思うが、農家の方では今でもつくっていると思う。 これも、大正から昭和にかけて生まれた私達年代の人がいなくなると、自然と絶え てしまうのだろうか。
 小正月の鏡開きは20日だった。気がついてみたら、私はいつの間にか小正月をや らなくなっていた。それは戦前戦後の物のない時代からだろうか、それともみんな 大きくなり、年よりもいなくなったので、つい餅をつくのがめんどうくさくなり、 だったろうか。

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