すぐれた自然の作沢沼

作沢沼の姿

 浮島のある沼として、近郷に名高い作沢沼は、秋田県鹿角市 八幡平夏井地区から南へ7km、海抜約800mの高山に位置し、面積が 約20,000u(2町歩)、満面と水をたたえ、最深部約22.5m(7丈5尺) を有するこの沼に大中小三つの浮島が浮遊している。沼は陥没による ものとみられている。
 この浮島の面積は、大きいのは約99u(30坪)、中は約66u(20坪)、 小は約33u(10坪)で、何れも約15cm(5寸)から1.5m(5尺)程あって、 芝草と土とででき、大小の樹木が生えている。
 この浮島には、人間が10人から30人も乗り、櫓を使って自由に浮動 することができるもので、日本では勿論のこと、世界的にも珍しい ものである。
 また、沼には鯉・鮒・どじょう・ぎばち・金魚・鉄魚等数多くの魚類が 繁殖し、祭典当日は勿論6月から9月頃までかけて釣師たちが登山し、 周囲に散在したり、或は浮島に乗って釣をする状景は誠に幽雅なものであります。
 
 途中には子分沢長者物語の伝説にある種々の遺跡を左右に眺め、 登山口からは深山の草木の香りをかぎつつ、せせらぎの音、夏は蝉の声、 秋は草虫の音、また、みそぎの滝の音に耳をかたむけて登る老若男女 の心身は清らかなものであり、ひたいから流れる汗も次第に消える 頃は、道しるべをたよりに、来た道も不安がなくなり、木の間から流れる日の光 と共に、山はだんだん頂上となり、皆の心も足も一路沼へと走りだすで ありましょう。「見えた。見えた」の歓声、一時はただ茫然と沼の水面 を眺めるばかり……。
 
 沼の周囲には「かめこつつじ(ドウダンツツジとも)」が愛嬌よく咲きみだれ、 魚類と共に登山者の心をなぐさめる。高山植物としての「はえ取り草 (モウセンゴケとも)」は、「かめこつつじ」と共に珍しいものであります。 「はえ取り草」は、浮島にも沢山繁茂しています。
 
 この沼の一隅に古代の建築そのままの白沢(さくざわ)神社が建立せられ、 年2回(6月・10月)の例祭が行われます。6月の例祭には宵宮が催され、 前日から老若の男子が御饌御酒(みけみき)を持参し、神の加護にあずかろうと 神前に捧げ、祭式終了と共に1.5m(5尺)余りに積み重ねた焚火を囲み、「なおらいの会」 が始まり、一夜を飲み、食い、踊り、歌いのうちに明かす状景は、天の岩屋を 想像できましょう。祭典当日は、夜明け早々から遠近の村里から老若男女の 参詣人が馳せ参じ、作物・家畜の加護の大なる御神霊を戴き、また、浮島に乗って 神の加護を占うことも奇蹟なことでしょう。
 
 古くから白沢(さくざわ)と称されていたものが、いつの間にか作沢という文字が 使われるようになりました。一般及び地図には作沢という文字が使用されている ことなどから、そのほうが適切であろうと思います。

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