鹿友会誌(抄)
「第九冊」
 
△文芸
○陣中微吟   玉桃
 満州は氷の中に春立ちて 散りし日本の花ぞ惜まる
 武夫の屍の宿を人問はば 何処も同じ我が君の為め
 同朋の情けの扇手に持てば やさしく起る日の本の風
 暫くは剣持つ手をなに貸して 風の便りを聞かんとぞ思ふ
 
 真の暗夜に銃剣つけて 忍ぶ雲間に杜鵑
 長い春には又咲く花も 散るもあらうぞ山桜
 濡れて其侭仮寝の夢も 乗取る奉天府
 
 一杯も今宵限りの命かな
 里の子の小唄も今日の名残哉
 里の子に惜まれて立つ冬日哉
 何んとなくふり返り見る順山屯
 
○旅のつと   ちよ子
 三十六年十一月、中禅寺に遊びし時
 色にほふ紅葉は花に劣らねど 秋の野山はとはに淋しき
 三十七年三月、遠州灘を西せしとき
 月落ちてあやめもわからぬ海原に お前あたりか燈ひとつ
 幼き友の死を聞きて
 夢さめて残るなみだや明けの月

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