鹿友会誌(抄)第四十四冊
特別発刊「鹿角出身産業家列伝(第一輯)」
 
△淺野末太郎氏(鉱業家)
 
淺野末太郎氏
中日興業社主 淺野末太郎氏(尾去沢出身)
 
 氏は尾去沢の出身、小学校時代より秀才の誉あり、佐藤小真木支山長に懇望せられて 養子となり、工手学校採冶を首席卒業、仙台高工を優等卒業三菱鉱山部に入りて累進し て技師となり、後任を辞して中日興業社を興して鉱山鑑定売買仲介業の経営を創む、南 は仏印より北は樺太満洲北支足蹟到らさるなし、座暖かならず、南船北馬とは氏の今日 の経営振りを形容するの辞に適すと謂はんか、活動の猛烈に驚くべきものあり、氏既に 鉱山に関する著述二つあり、斯界の好著と称せらる。
 
 鉱業資源開発の重要性に就て
淺野末太郎
 人生生活の本体は衣食住にして美衣を纏はんがために綿布を必要とし美食を得ん為に 田畑、または海産物を獲ん為船舶を造り肉食の為め家畜をかひぬ。宏壮の居を構へん為 に特殊の林産石材掌握し、或は最近の大廈高楼は「セメント」並に鉄材の必要となり況 して「タイル」等の陶器的の特殊資材を製作する等、また美術的の建築物としては限り なき迄必要資材を要するなり。
 
 人間の交通の為には飛行機、汽車、電車、自動車、馬車、船舶の必要となり、従っ て動力の資源として重油、石炭の必要を来し、船舶製造の為銅鉄木材を要するなり。然 るに限られたる地域に自己の限度以上の欲望を得んが為闘争、即ち戦争となり、石炭、 鐵、銅、亜鉛、鉛、水鉛錫重石「ニッケル」「コバルト」安質母尼、水銀、満俺「アル ミニューム」石綿、蛍石、硅石、硝石燐等有する鉱物資源を必要とするものにして実に 世界は常に東興西亡南盛北衰時期と文化の進歩程度によりて相次で角暴逐威を振ふを見 るは歴史の明かなる処なり、実に自己の子孫繁栄の為に日夜自己地盤獲得に邁進止まざ るものあり尤も忌むべき戦争を敢てして迄も常に静止する事なき欲望の動くを見せ殆ん ど寧暇なきものと言ひ得べく実に戦争は安逸を貪る間接の手段たるものにして戦争の為 の資材を得ん為の戦争の如きもので、即ち生活向上すればする程鉱物資源と密接の関係 にありと云ひ得べく鉱業資源の獲得こそ世界制覇の業たらずんばあらず、然らば世界中 尤も鉱業資源に富めるは何処と言へば申迄もなく米国にして、
 
金は已に世界の六〇%、銅三六%、亜鉛三一%、鉄二九%、石炭三六%、油六一%保有 せり、
パルプ三六%、玉蜀黍四二%、綿花三九%、小麦二一%の製産にして工業資源の不足な るは錫「タングステン」安質母尼、「ニッケル」等にして外は加奈陀の石綿水鉛、英に 補給を受くべき何れと云ふても戦争資材の最も必要なる錫「タングステン」及び「ゴム」 不足は到底良好の戦備を得べからざる点より見ても米国は長期戦に亘れば亘る程貯蔵物消 費も益々苦境に陥るや火を見るより明かなり。
 
 然らば我共栄圏は如何なるものと云ふに、
石炭は世界の三〇%、石油三%、鉄三%、金銀六%、タングステン七〇%、満俺一〇%、 亜鉛一五%、錫六五%、銅一〇%
増産可能ゴム三〇(七〇)%、綿花一〇(三〇)%、羊毛二〇(三〇)%
食糧不足なし三〇%
大体充足せられ得べきものは未だ幾多の努力を払はざるべからざるものあり、その内最 も焦眉の急を要するものは石油と銅にして石油は「コブラ」の増産にして補ひ水銀代用 は窒化鉛にて補ひ銅の或る一部は「アルミニューム」にて代用せんも東亜の守りを堅く せん為には南亜「ロデシヤ」に年産五四万屯の産出地あるを吾人は忘れてならぬ。又南 亜「トランスバール」は人も知る如く世界産金の四分ノ一を産するものなるを以て此の 二品の対物として彼地は吾人の鉱業家より見れば唾涎置く能はざるものなり。

[次へ進んで下さい]